実験社会心理学研究
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不当なoutcomeの原因帰属に関する実験的研究 (I)
Lerner-正当世界仮説の検討
諸井 克英
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1983 年 22 巻 2 号 p. 109-122

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抄録

Lerner-Simmonsパラダイムで見出されたderogation現象の正当世界仮説に基づく解釈の妥当性が検討された。
被験者は107名の男女学生で, 対連合学習実験の場面を収録したと称されるテープを聴いた。その際, 被験者は, 自分自身学習者になったつもりでテープを聴くIS-set条件か, 学習者の身体の動きや状態を想像しながらテープを聴くWHset条件のいずれかに振り当てられた。学習実験は, Lernerの主張する行為と人格的価値へのoutcomeの二者択一的な対応づけの妥当性を検討するために, 何のショックも学習者には与えられないC条件, 学習者のエラーに対応してショックが与えられるES条件, およびエラーとは無関係にショックが与えられるRS条件を設けた。
仮説は次の通りである。1) WHsetを取った場合には, ESおよびRS条件ではSPのderogationが生じるが, その程度はRS条件の方が大きいであろう。2) ISsetを取った場合には, ESおよびRS条件では同情が生じるが, その程度はRS条件の方が大きいであろう。
仮説1), 2) は部分的にしか支持されなかったが, 男子の結果では, 以下に示すように, 比較的明確な傾向が見出された。
(1) SPと観察者との間にユニット関係があるISset条件では, 三つの強化条件を通じてSPの相対印象値は高かったが, 他の評定と関連づけると, その意味合いは異なっていた。
C条件ではSPの高い相対印象値はSPのパフォマンスの知覚と結びついており, ES条件では, それに加えて, 実験事態のポジティブな評価を伴っていた。しかし, RS条件での高い相対印象値は実験事態のネガティブな評価を伴っていた。したがって, ES条件での高い相対印象値は実験事態のポジティブな受容の結果であるのに対し, RS条件でのそれは不当な事態におかれたSPへの同情の反映として考えられる。ただし, RS条件では, Lernerの主張とは逆に, 正当世界信念は同情を抑制する方向に働くことが見出された。また, SPへの共感が同情を生じるというAdermanの主張も支持されなかった。
(2) SPと観察者との間にユニット関係がないWH-set条件では, SPの相対印象値は, ES条件では少し高く, RS条件では最も低かった。
C条件では, C-ISset条件に比べて, 相対印象値は低かったが, C-ISset条件と同様にSPのパフォマンスの知覚に結びついていた。ES条件では, 少し高い相対印象値は実験事態のネガティブな評価を伴い, RS-ISset条件と類似していた。しかし, RS条件では, 低い相対印象値は実験事態のポジティブな評価を伴っており, エラーとショックとが対応せず, 本来は不当であるべき実験事態全体をポジティブ方向に歪曲することによって, 正当性を回復しようとする傾向がうかがわれ, そのために, SP自体のderogationは弱められたと推測される。また, ESおよびRS条件では, 正当世界信念が強い観察者ほど, 相対印象値を低くする傾向が見られ, 正当世界仮説は支持された。
(3) これに対して, C-WHset, C-ISsetおよびES-ISsetの三つの条件では, SPの評価は正当世界信念の強さとは全く関係がなく, もっぱらSPの行動に関する情報に基づいて行なわれた。したがって, 本来, 不当性の知覚が成立しないこれらの条件では, 一般的な帰属理論による結果の解釈が妥当であると言えよう。

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