実験社会心理学研究
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所信の形成と変化の機制についての研究 (1)
認知的矛盾の解決に及ぼす現実性の効果
西田 公昭
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1988 年 28 巻 1 号 p. 65-71

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抄録
本研究の目的は, 所信の形成や変化の機制の解明にアプローチする第一歩として, 「知識」と分類される依存性の低い所信の形成および変化の機制を明らかにすることであった。仮説は, 与えられる情報にともなう現実性の高低が所信の固執や変化に影響を与えるであろうという立場で実験をおこなった。
所信の変化に対してx2検定の結果から, 現実性は最初の情報においては効果をもたず, 最初の情報とは矛盾する不一致情報において促進させる効果をもつことが示された。また所信に対する確信度の変化では, 分散分析の結果から最初の情報と不一致情報のいずれからも現実性の主効果が有意であった。これらのことより, 現実性は所信の形成や変化に影響を及ぼすことが示された。加えて現実性は形成と変化とでは影響の与え方が異なることを考察した。このような本実験の結果から所信の形成および変化の機制を考えてみると, 次のようになろう。人は所信の現実性を吟味する認知機能を有している。これまでと矛盾のない一致した情報, あるいはまったくこれまでと関連のない情報を認知したならば, その機能とはあまり関係なく記憶され所信となる。しかし, その所信と矛盾する情報を認知すると, これまでの所信にともなう現実性の高さと比較され, 新たな所信がこれまでの所信に代わって形成されるか, あるいは今までのまま保持されるかの判断がなされるのである。しかし, 本実験では極めて依存性の低い単語の記憶を所信の形成の課題として扱った。よってこのように考えることができるのは, 所信の保持において, あまり価値観には依存しないものについてのみであり, 依存性の高い所信の場合は, たとえ認知された不一致情報の現実性が高くとも, 所信が変化するかどうかは問題である。
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© 日本グループ・ダイナミックス学会
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