森林立地
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奥羽山脈栗駒山に断片的にみられるオオシラビソ林の立地環境について
若松 伸彦菊池 多賀夫
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2006 年 48 巻 1 号 p. 33-41

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抄録

東北日本の一部山岳では,亜高山性針葉樹林が発達すべき温度領域空間にも関わらず針葉樹林帯が形成されていない地域があり「偽高山帯」と呼ばれている。「偽高山帯」の成因の究明には,オオシラビソ林がごく最近まで,あるいは現在も分布拡大の途上にある可能性を考慮した上で,小面積でオオシラビソ林が存在する山岳におけるオオシラビソ林の分布規定要因を究明し,侵入,定着の過程を明らかにすることが重要な手がかりとなる。本稿では,オオシラビソがごく小面積で分布する栗駒山林岳において林分の立地を解析し,その結果を踏まえてオオシラビソ林の分布規定要因の検討をおこない,同時にオオシラビソ林の成立過程を考察した。秣岳におけるオオシラビソ林は,高標高域,風背側斜面に分布する独自の傾向を示したが,一方で標高,斜面傾斜角度,斜面傾斜方位,地形に関して,分布傾向は他群落と重なっていた。林内の土壌は厚さ20cm程度で腐植層および腐植を含むローム層からなり,西暦915年に降下した十和田a火山灰が,基盤となる岩塊層に近い位置に存在していた。高標高の風背斜面域には積雪が多く,冬季の低温や風衝からの保護が期待される。オオシラビソ林はこのような条件下に分布していると考えられるが,加えて,林内での土壌厚が薄いことは林床のササの卓越を妨げ,その結果,更新の面から林分の成立にプラスに働いていると考えられる。To-aが岩塊層に接する深さに確認されたことは,岩塊を覆う十分な土壌の発達と,これに相応する十分な植被の成立はTo-a降下当時まではなく,降下後にオオシラビソが定着し,林分を形成して今日に至っていることを示唆している。

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© 2006 森林立地学会
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