森林立地
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タイ国マレー半島西岸における海岸林の津波被害 : 2004年12月26日のスマトラ島沖地震の影響
松本 陽介田淵 隆一平田 泰雅藤岡 義三Pipat PATANAPONPAIBOONSasitorn POUNGPARN
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2006 年 48 巻 1 号 p. 43-56

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抄録

2004年12月26日のスマトラ沖地震時の大津波がタイ国南部マレー半島部西岸(Krabi県〜Phuket県〜Pang-nga県〜Ra-nong県)の沿岸植生に及ぼした影響の緊急調査を2005年3月中旬に行った。海に面した砂地にモクマオウ(一部は約30年前から植栽),海や川に面した泥炭上にマングローブ林(大半は自然林),これらの背後にメラルーカ林やココヤシ園が分布していた。建築物や人命の被害が多かった場所は,アンダマン海に面した海岸リゾート地や漁村であった。これらの場所はいずれも共通して海抜高が低い。海岸林の津波被害軽減効果については,マングローブ特にRhizophora属樹種で林内約10mまでに多くの物体や生存者がトラップされ,その効果が高かった。マングローブの地上根密度の高さが貢献していると考えられた。モクマオウ,メラルーカなどの林やココヤシ園では,幹の密度が低く,顕著なトラップ効果は認められなかった。大形のモクマオウは根系の洗掘による根返り,小形のものは押し倒しによる枯死被害が認められた。生き残った個体でも異常落葉が認められた。林内の草本植生の多くは津波によって運ばれた海砂に埋もれ,灌木などの木本植生の大半は押し倒しなどによる枯死被害が目立った。マングローブ林では海砂の堆積が顕著であり,今後の根系呼吸への障害となることが懸念された。海水を被ったメラルーカなどの常緑林では塩害と思われる葉の褐変や異常落葉が認められた。海岸林の津波被害は,その発生時の物理的被害に止まらず,水ストレスや塩ストレスなどによる将来の衰退・枯死被害発生が予測される。

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© 2006 森林立地学会
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