南アルプス仙水峠の岩塊地には,シラビソ・オオシラビソ林,ハイマツ・コメツガ低木林,および岩塊荒原がみられる。岩塊地のなかでの植生景観の分布とその成立要因を明らかにするために,各植生景観の地形条件,表層堆積物の状態を比較した。植生景観を3つのタイプ(高木林,低木林,荒原)に分類し,荒原は島状に散在する低木林のサイズから大形島状型,小形島状型に細分した。高木林型は,開析作用が及ぶところ,あるいは尾根筋や遷急線にみられた。低木林や大形島状型の荒原は斜面中・下部の舌状地形の平坦面に,小形島状型の荒原は舌状地形の前面や線形凹地に分布していた。岩塊地の表層における無機質細粒物層の出現率は,高木林,低木林,大形島状型の順に低下した。小形島状型は,細粒物質層の欠如と岩塊破砕層によって特徴づけられ,また,侵入した樹木は矮生化していた。以上のことから,表層堆積物の状態は植生景観の成立に大きく関与しており,とくに無機質細粒物層の存在が森林発達をもたらし,粗礫の集積がそれを阻害すると考えられた。