奈良県吉野郡川上村にある原生状態の温帯針葉樹林における樹木群集動態の特徴を,異なった地形に成立した2林分の比較から明らかにするために,1985年に尾根調査区と斜面調査区において胸高直径(DBH)≧5cmの全木本幹の毎木調査を行い,2002年と2007年に再調査を行った。斜面林分の死亡率と新規加入率は尾根林分より高く,特に下層個体の死亡率は斜面林分で有意に高かった。主要樹種の個体群回転率は斜面林分ではDBHと負の相関があったが,尾根林分では小DBHサイズ樹種の低い個体群回転率により,そのような関係はみられなかった。主要樹種の個体群動態は調査期間に関係なく様々なパターンが確認されたが,斜面と尾根に共通して出現する種では,広葉樹では動的平衡状態の傾向,針葉樹では新規加入がなく個体数減少の傾向があった。また,個体群動態の動的平衡状態は,斜面で優占する種でみられたが,尾根で優占する種にはみられなかった。主要針葉樹と尾根で優占する種でみられた個体群動態の非平衡状態は,地すべり撹乱やギャップ形成などのまれなイベントに関係した実生段階の更新特性が,種個体群の維持に重要であることを示唆している。