抄録
東京電力福島第一原発の事故による放射能汚染地帯の大部分は森林が占めているため,森林での空間線量率の時系列変化を把握することは重要である。そこで,本研究は森林内の放射性セシウムの汚染調査が行われている福島県川内村,大玉村,只見町のスギ林と大玉村の落葉広葉樹林において,2011年~2014年における地上1mと10cmの空間線量率の変化を調査するとともに,その森林内での放射性セシウムの移動との関係を解析した。その結果,2011年~2012年にかけて,空間線量率は自然減衰から推定される低減の程度よりも小さかったが,2012年以降は,概ね自然減衰に沿って低下した。2011年~2012年の空間線量率の低減が自然減衰から推定される低減の程度よりも小さかったのは,この期間に樹木に沈着した放射性セシウムが地表部へ移行し,測定高付近の落葉層や土壌の放射性セシウムが相対的に増加したためと推察された。また2012年以降は森林内の放射性セシウムの移動が少なくなったことが主因と考えられた。これらの結果は,市街地や障害物のない平坦地とは異なり,森林では地表面の放射性セシウムがウェザリングなどによって流出しにくいことを示唆していた。