潮汐による水位が変動するアマゾン川河下流低湿地では,地域住民の経済的基盤作物(果実)を生産する天然生アサイー(Euterpe oleracea)以外の樹種を除伐することにより,植生の単一化が急速に進んでいる。しかしながら,水位変動や地形などの立地条件とアサイーの単一化がその生育に与える影響についての知見は少ない。本研究では,アサイーの生育に及ぼす立地の高低差に伴う水位変動と他樹種との混交状況の影響の評価を目的とした。調査は,カソン島で6カ所,ムルチザウ島で5カ所,ジュルアテウア島・ジューバ島で2カ所ずつ毎木調査を実施した。地形の高低差を水位変動による冠水時間との関係に置き換えるために,カソン島の調査区で地形調査を実施し, 年間を通して地上・地下水位を測定した。アサイーの生育が良好な立地は,地盤高が5 m程度で,平均冠水時間が110―120時間/月と短く,連続非冠水日数が6日/月と長めのため,表層土壌が還元状態になかった。また, ムトゥチー(Pterocarpus sp.),ミリチー(Mauritia flexuosa),ウクウーバ(Virola surinamensis)などとの混交率が高かった。調査地の多くで,生態系保全を考慮したアサイー生産のため,連続非冠水日数が月6日未満の立地を避け,他樹種と平均20%以上混交させ,アサイー密度を1,000本/ha程度に管理されていた。