2025 年 107 巻 2 号 p. 26-32
ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)は,カシノナガキクイムシが媒介する伝染病である。ナラ枯れ被害の拡大を防ぐ策として,枯死木の分割処理は当該昆虫の駆除効果が大きいだけでなく,薪に利用できる点で有効な手段の一つである。しかし,薪割りには多くのコストを要する。また,割材の効果を調べた研究は,薪に利用できる樹種に限られている。そこで,コナラとマテバシイの分割後の材を林床に放置したとしても,羽化脱出数が減る可能性を検証した。まず,両樹種の枯死木を試験地に搬入し,30 cmに玉切りした。供試丸太について,2分割と8分割にした材と,分割しない材を準備した。各材を林床に数か月間放置した後に羽化トラップ内に設置し,経時的に個体を回収した。また,含水率を推定するために各材の重量を測定した。コナラでは,個体数が他に比べて8分割材で有意に少なく,推定含水率も8分割区で有意に低かった。マテバシイでは,分割なし材と比べて2分割材と8分割材において個体数は有意に少なかったが,2分割材と8分割材の推定含水率は差が見られなかった。以上から,両樹種において分割した材を林床に放置したとしても,羽化脱出数を抑えられる可能性がある。