2019年に森林経営管理制度と森林環境譲与税が導入され,市町村森林行政への期待が高まっている。他方で,市町村林務職員の過度の業務負担が指摘されており,市町村森林行政の事業委託について検討する必要がある。その方策に公有林の信託が考えられるが,詳しく事例調査した研究は管見の限りない。本論文では,公有林信託の実態を明らかにし,その意義と課題を考察することを目的として,岐阜県御嵩町の森林を可茂森林組合に信託契約した事例を対象に,現地での聞き取り調査と関連資料の分析を行った。その結果,信託契約された町有林では町の財政的負担なしに森林整備や素材生産の実績が増加し,町有林に係る町行政の業務・費用負担が軽減されたことが明らかになった。公有林信託事業の意義として1)専門的な業務を森林組合が主体的に行う体制を構築し,行政職員の業務負担を軽減できること,2)行政が費用負担しない形で公有林整備を行い,財政負担の軽減を図れること,課題として信託対象林は継続性の観点から収益を挙げられる森林に限られることが考えられる。
民有林林道は森林整備の基幹道,山村住民の生活道,災害時の迂回路など多様な機能を有するが,これまでその全国的な維持管理の実態や課題は明らかとなっていなかった。したがって,本稿では統計データの分析や関係者への聞き取り,市町村林道担当者へのアンケートから,全国の民有林林道の維持管理に関する現状を把握し,各自治体が直面している課題への対応方向について検討した。その結果,市町村担当者の人員や予算の不足,林道台帳データのデジタル化の遅れ,沿線集落住民の高齢化や人口減少など,複数の要因から維持管理水準を保つことが難しい状況が明らかとなった。とくに,林道の位置情報など基盤となるデータの不足により,見回りや災害時対応が困難となるなど,維持管理の支障となっていた。そのため,デジタルデータの整備とGISとの連携によって各路線の費用対効果を可視化し,維持管理の優先順位を明確にすることで,効率化が期待される。また,沿線住民の高齢化や減少に対しては,外部団体との連携による維持管理支援も有効な手段である。以上の体制を整備していく上で,都道府県や国,民間事業者らによる技術的支援,予算的支援,先進事例の普及が必要である。
長野県小谷村旧戸土地区において,あがりこ型樹形をもつ台伐り萌芽「とうだい」ブナが優占する林分の利用実態を,聞き取りと毎木調査により明らかにした。台伐りは地元青年団により1950年頃まで行われ,伐採した萌芽幹は薪として小学校のストーブ燃料に供された。春先の残雪上で太い萌芽幹を鋸で伐採し,細い幹を残して再萌芽を促す本作業は,秋季の地際伐採による製炭とは異なる利用体系であった。とうだい元株(n=14)は平均胸高直径105.1 cm,萌芽発生高4.7 mで,萌芽幹(平均5.1本)の直径分布は10-20 cmにピークを示した。40×40 m方形区内の立木(胸高直径≧5 cm)はすべてブナであり,とうだい(6個体)が胸高断面積合計(58.40 m2/ha)の約4割を占めた。単幹の大径木は自然更新,中径木は薪炭利用後の一斉更新に由来し,複合的な資源利用が示唆された。とうだい樹冠下には稚樹の定着が認められ,ブナの継続的な更新が示唆された。