日本森林学会誌
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最新号
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論文
  • 八十川 伊織, 五味 高志, 荒田 洋平
    2024 年 106 巻 6 号 p. 145-155
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    北海道胆振東部地震(Mw 6.6)に伴い斜面崩壊が発生した流域(357 ha)を対象とし,異なる林相と火山性土壌の森林炭素蓄積量の把握,地震に伴う斜面崩壊の影響を受けた森林炭素蓄積量を推定した。現地調査から流域全体の炭素蓄積量は樹木や林床植生など地上部6×104 t-Cと土壌や根系などの地下部13×104 t-Cが得られた。流域内の崩壊428カ所を確認し,総崩壊面積74 ha,崩壊面積率20.6%であった。崩壊面積率は,老齢広葉樹林(81年生以上)で31.7%と高く,次いで39~45年生のカラマツ林で29.3%であった。土壌中には樽前火山由来の火山性降下物(テフラ)と黒ボク土層の互層が深度2~3 mまで確認され,黒ボク層や下位ローム層で高い炭素蓄積量であった。平均崩壊すべり面を1.5 mとした場合,斜面崩壊の影響を受けた炭素蓄積量は4×104 t-Cと推定された。対象流域の炭素移動量は全炭素蓄積量の21.7%であり,老齢林の炭素蓄積量が高く,崩壊後の炭素移動量も高くなった。広域の斜面崩壊は,森林地上部と地下部の変化から森林の生態系サービスとしての炭素蓄積量に長期的影響を及ぼすと考えられた。

  • 宮本 尚子, 田中 功二, 那須 仁弥, 織部 雄一朗
    2024 年 106 巻 6 号 p. 156-163
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    寒冷地でのクロマツ種子の生産事業で合成サイトカイニン・BAPによる雌花着生促進技術を実用するため,青森県の採種園において3種類の方法(冬芽へのペースト剤塗布,液剤の枝注入と樹幹注入)でBAP処理を実施し,処理方法,処理時期(2013年9月5,13,20,27日と10月4日)と処理クローン(5種類)による効果の違いと各処理方法の所要時間を調べ,採種園での施用に最適な処理方法については,種苗の増産効果を試算した。いずれの処理方法でも雄花群に雌花が誘導され,その効果は,処理方法(ペースト剤塗布より枝注入で高く,樹幹注入で低い,P<0.05),処理時期(9月中・下旬で高く,その前後は低い,P<0.001)と処理クローンにより異なった。所要時間は樹幹注入が最短でペースト剤塗布と枝注入に差はなかったが,採種園での施用に最適な処理方法としては,雌花着生促進効果を重視して枝注入を選んだ。BAP処理で得られた種子の充実率と発芽率は,通常の種子の65%程度であった。枝注入では,雄花群1個当たり3.8個の球果と40本の苗木が,一次枝5本に処理した採種木1個体当たり通常の5.8倍の苗木が得られると試算された。

  • 村上 紅葉, 大住 克博
    2024 年 106 巻 6 号 p. 164-171
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    里山林の植生構造に,過去の土地利用が人為攪乱として与えた影響を評価した。20世紀中葉の植生景観を空中写真より復元したところ,耕地周囲の起伏地上部は天然生林に覆われる一方,耕地に接した下部斜面は,草山や柴山と考えられる低い植生に覆われていた。地域住民からの聞き取りでは,過去に天然生林は10年以上の間隔で伐採され,薪炭が生産されていたが,山裾の草地は年に数度刈取られていた。現在の里山林の種組成は,20世紀中葉に天然生林であった場所と,耕地に隣接する低い植生であった場所とで,大きく異なっていた。前者で圧倒的に優占するコナラが後者では欠け,代わりに先駆樹種や竹類が優占していた。コナラは萌芽能力と繁殖早熟性により薪炭林や草山,柴山でも個体群を維持してきたと考えられている。しかし,年に数度という極めて頻繁な刈取り下では,萌芽の成長や種子生産が阻害されて個体群が維持されなかった上に,放置後成立した天然生林にも,光要求度の高いコナラは進入できなかったと推測された。このように調査地の現在の里山の植生景観には空間的な構造が認められ,そこには過去の利用に伴う人為攪乱様式の違いが投影されていると考えられた。

  • ―距離従属競争指数および距離独立競争指数の評価―
    福本 桂子, 稲垣 善之, 宮本 和樹
    2024 年 106 巻 6 号 p. 172-178
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル オープンアクセス

    収穫予測は持続的な森林経営のために重要である。単木レベルの収穫予測では,林内の個体間競争を表現した競争指数を組込んだ成長モデルが検討され,立木間の距離を用いる距離従属モデルと用いない距離独立モデルの有効性が検証されてきた。スギでは両モデルの予測精度は同等であるといわれているが,ヒノキについての検証は不十分であった。本研究では,間伐強度の異なる四国地方のヒノキ林を対象に, 距離従属競争指数4種と距離独立競争指数5種を単木直径成長モデルに組み込み予測精度を評価した。さらに,モデルの精度評価の結果から収穫予測への応用について考察した。その結果,距離従属モデルではMD(平均距離),距離独立モデルではBR(断面積比)の当てはまりが良く,距離従属競争指数よりも距離独立競争指数の方で当てはまりが良い傾向がみられた。平均距離と断面積比を変数とする直径成長モデルによってヒノキの直径成長量を推定したところ,異なる間伐強度であっても同等の予測精度を示していた。これらの結果から,距離独立競争指数をモデル内に組込むことでヒノキの単木直径成長を簡易に予測できる可能性が示され,収穫予測へ応用できると考えられた。

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