1999 年 81 巻 3 号 p. 178-186
森林の成立に伴う流域内酸中和機構の変化を解明するために,基岩地質は同じで植生の発達段階および土層厚の異なる三つの小流域において水質水文観測を行った。流域内部の水文過程を樹冠通過,表層•下層土壌層浸透,飽和地下水の移動,および渓流水の流下の各過程に区分し,対応する採水地点における水質の変化から,流域内部でのpHの変化, H+フラックスや, H+生成•消費過程の分布を明らかにした。植生の発達に伴い,表層土壌層では有機物の分解などのH+生成過程が現れ,H+消費量に対し生成量が多くなった結果,余剰のH+が下層土壌層にもたらされることが明らかとなった。また,各流域では生成されたH+を化学的風化によって消費するのに十分な土層厚が存在するため,渓流水のpHを決定しているのは土層厚の増加による土壌層深部のCO2の増加であった。つまり,渓流水の流下過程における脱気作用後のpHは土層厚が大きいほど高いことが示された。