日本林学会誌
Online ISSN : 2185-8195
Print ISSN : 0021-485X
H+収支を用いた森林植生が酸中和機構に与える影響の評価
浅野 友子大手 信人内田 太郎勝山 正則
著者情報
ジャーナル フリー

2000 年 82 巻 1 号 p. 20-27

詳細
抄録

森林植生が流域の酸中和機構に与える影響を定量的に評価することを目的に, 基岩地質は同じで植生の発達段階の異なる三つの小流域で行った水質水文観測の結果から, 年降水量の異なる2年分のH+収支を算出した。この結果, 森林の成立に伴う生物活性の増大により, 有機物の無機化, 窒素の形態変化によるH+生成量が増加することが示された。一方, 森林流域では蒸散量の増加による流出水量の減少の結果, CO2の溶解•解離によるH+生成量は減少した。植物のイオン吸収量の推定値を考慮すると, 森林の成立によりH+生成量の合計は2.3~4.0倍に増加したが, どの流域でも生成したH+の96%以上は風化および陽イオン交換によって流域内で消費されることが示された。大気からのインプット,窒素の形態変化, 有機物の無機化とCO2の溶解•解離によるH+生成量の合計は, 年降水量や年流出水量の変動により大きく変動し, その変動幅は, 森林植生の有無による変動幅と同程度であった。

著者関連情報
© 日本森林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top