2011 年 44 巻 8 号 p. 1011-1017
症例は67歳の女性で,糖尿病などで加療中であった.α-グルコシダーゼ阻害剤のミグリトール服用開始8か月後に,突然の腹痛と発熱で受診された.画像所見で小腸壁内・腸間膜内に気腫と腸管壁の菲薄化を認め,穿孔を伴う腸管嚢腫様気腫症と診断し,試験開腹術を行った.術中所見で穿孔はなく,回腸とその腸間膜にのみ多発する気腫像を認めた.術後よりミグリトールを中止し,約1年間再発を認めていない.α-グルコシダーゼ阻害剤による腸管嚢腫様気腫症の報告はまれで,ミグリトールによる報告は初めてである.他のα-グルコシダーゼ阻害剤と異なり,ミグリトールは小腸上部でのみ糖吸収を抑制するため,小腸下部で糖は吸収される.α-グルコシダーゼ阻害剤誘発腸管嚢腫様気腫症の好発部位は大腸であるが,本症例では回腸に限局していた.小腸下部で糖が吸収・発酵され,糖が大腸まで到達せず,回腸のみで内圧が上昇したことが原因と考えられる.