症例は53歳の男性で,腹部超音波検査にて肝左葉に腫瘍を指摘されて当院へ紹介となった.上部消化管内視鏡検査にて胃体上部前壁に深い潰瘍がある3型腫瘍を認め,生検では中分化型管状腺癌であった.腹部造影CTでは小網内に胃体上部前壁と胃癌を介して連続する腫瘍を認めた.腫瘍は被膜を有し,大部分が脂肪成分で,囊胞構造と微小石灰化が混在し,胃奇形腫と診断した.胃癌と胃奇形腫に対して胃全摘術,脾合併切除術を施行した.病理組織学的検査にて小網内腫瘍は多様な組織を持つ成熟奇形腫であった.胃癌の深い潰瘍と考えられた構造物は腸上皮と固有筋層を有する真性胃憩室であった.胃癌は大部分が胃憩室内に存在しており,胃憩室に生じた胃癌と考えられた.本症例は胃外型の胃奇形腫の牽引により生じた胃憩室に胃癌が発生した非常にまれな症例であり,文献的考察を加えて報告する.