2003 年 13 巻 p. 5-21
この論文の目的は、医療保険における給付水準が、消費者の選択する予防行動と、どのような関係を持っているかを実証的に明らかにすることである。一般に医療保険における保険給付は、消費者の医療サービス消費における金銭的負担を軽減する役割を果たすため、モラル・ハザードと呼ばれる予防行動の低下を招く要因であると考えられている。しかし医療保険におけるモラル・ハザードは実証的に明らかなものではなく、医療保険研究において重要な分析テーマの一つとなっている。本稿では、生命保険文化センターが1988年に実施した『健康と医療に関する調査』のデータを利用して、医療保険の給付水準が予防行動に与える影響を分析した。利用した医療保険の給付水準は、医療保険制度における自己負担率と、私的医療保険の加入を示す変数である。本稿から得られた顕著な結果は、私的医療保険の加入と喫煙行動に関する関心の低下が関連していることである。したがって医療保険の設計において、消費者の喫煙に関する情報を活用することには、経済学的な価値があるものと考えられる。