本研究では、日本における新有効成分(NCE)一個当たりの平均研究開発(R&D)支出の経年変化を分析した。本研究を実施する理由は以下の2点である。第1に、1992年に採択された生物多様性条約では遺伝資源の利用とその利益の配分が課題であり、この検討にはR&D支出の分析が必要である。第2に、日本の新薬のR&D費用の状況を詳細に分析した研究が不足しており、日本の経年変化の実態を把握することが困難となっている。
新薬のR&D費用の推計には、医薬品産業全体の統計データを各種変数を用いて回帰分析する手法、個々のNCE事例をアンケート調査により分析する手法がある。日本を対象とした研究は、企業アンケー卜調査を用いた研究があるが、アンケート調査のみを用いた推計手法では時系列的な推計が困難である。このため本研究では統計データを中心に、また企業アンケート調査による既存研究の結果を補足的に活用することで、R&Dプロセスの実態を考慮に入れた新たな試算方法を用いた。
本研究の結果、単位NCE当たりの平均R&D支出(開発途上で中止したプロジェク卜への支出を含み、基礎研究から開発研究までを含む)は、1985年に69-74億円、1995年に255-280億円と推計(1995年価格)された。本研究の結果は、概ね既存研究の結果を裏付けるものとなった。また、米国において単位NCE当たりの平均R&D支出が1980年代から1990年代に急激に増加しているが、それを上回る増加率で日本の医薬品産業におけるR&D支出が上昇したことが本研究によって明らかとなった。