2009 年 21 巻 2 号 p. 155-170
イギリスのThe National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)は1999年に設立され、今年で10年目を迎える。NICEの発行する技術評価のガイダンスでは医薬品の有効性、安全性に加えて医療経済評価も積極的に用いており、世界的な注目を集めてきた。このような特徴を持つNICEの技術評価ガイダンスについて、関係者へのインタビュー調査とその後の文献調査からNICEガイダンスの10年間におけるいくつかの大きな変化をまとめた。また、2000年から2008年度末までの9年間に発行されたガイダンスについて分析を行い、どのような意思決定を行っているかについて調査した。
本稿ではイギリスNICEの10年にわたる医療技術評価の実践とその課題、そして医療技術評価がNHSで使用すべきかどうかの判断に利用されていた段階から、(実質的な)償還価格の設定にも影響を与えるようになってきた状況をまとめた。そして、9年間のNICEガイダンスの変遷を追うことにより、費用対効果の情報が年とともに意志決定に大きな影響を与えるようになっていることを明らかにした。
イギリスのような医薬品価格を原則自由価格で市場メカニズムに価格をゆだねている国でも医薬品の価値と価格が必ずしも対応していない、すなわち「価値に基づく価格」(Value-based pricing)が実現していないという批判が起こっている。日本においても革新的な製品の適切な評価を行うための薬価制度改革が議論されているが、そもそも医療経済評価は医薬品の「価値」とその「価格」との関係を定量的に議論する手段のひとつであり、世界的には多くの国で意思決定に用いられている。適切な医療技術評価によって医薬品の価値が価格に反映されるような「価値に基づく価格」の仕組みについて日本でも議論が進んでいくことが期待される。