医療経済研究
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21 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 小塩 隆士
    2009 年 21 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    所得格差が健康あるいは健康意識にどのような影響を及ぼしているかが、社会疫学の分野で重要な研究テーマとなっている。とりわけ近年においては、個人属性や地域属性など多重なレベルの要因を同時に考慮して、格差と健康・健康意識の関係を分析する実証研究が精力的に進められている。
    日本ではデータ面の制約もあって、所得格差と健康・健康意識の関係に関する多重レベルの実証分析を進めることは容易ではなかった。しかし、データ面の制約はまったく克服できないというわけではなく、実際、最近では国際的に比較可能な形での研究が徐々に蓄積され始めている。
    本稿では、日本における実証研究を簡単に展望するとともに、データや分析面で解決すべき課題、今後の研究課題について、筆者自らの暫定的な研究成果も踏まえながら整理する。所得格差と健康・健康意識との関係は、経済学や社会学にとっても関心の高いテーマである。今後は、より一般的なwell-being研究も視野に入れた、学際的・総合的な研究の進展が期待される。

論文
  • 熊谷 成将
    2009 年 21 巻 2 号 p. 99-113
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    医療サービスの分配に関して垂直的不公平に焦点をあてた実証研究は少ない。本研究では、集中度指数を用いて公立病院の入院医療サービスを下支えする負担金が垂直的公平に繰入れられていたかを明らかにし、タイル尺度を用いて負担金の不平等度を分析した。
    近畿地方の市町村立病院のデータを用い、次の3点を明らかにした。(1)入院医療ニーズに対して患者あたり負担金が垂直的に公平であり、患者あたり入院医療費(1日)が垂直的にほぼ公平であった。健康状態が悪い地域への繰入れを重視すると、処置・手術比率が高い病院に有利な形で負担金が繰入れられ、入院患者数(1日平均)に対して患者あたり負担金が垂直的に不公平となる。(2)患者あたり負担金を構成する要素のうち入院患者あたり負担金の不平等度が最も大きいが、平成17年度に医師あたり外来患者数の不平等度が大きくなり、患者あたり負担金の不平等の要因が変化した。この不平等の拡大は、平成16年度からの医師臨床研修制度導入の影響による。(3)入院患者の地域間移動を考慮に入れなければ、医師あたり外来患者数の病院間格差を過小に評価し、患者あたり負担金の不平等度を過大に評価する。

  • ―ヘドニック法による地域社会の「安心」の測定―
    菅原 琢磨
    2009 年 21 巻 2 号 p. 115-135
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、医療提供基盤が整備されることにより国民が享受しうる価値が、1)現実に医療サービスが提供されることに係る「本体」部分と、2)地域住民が感じる安心感などの「外部効果」に区分されると定義したうえで、後者の「外部効果」の価値評価を特定地域の公表データで定量的に明らかにすることである。分析対象を神奈川県横浜市とし、平成19年度公示地価と地価地点の土地属性、周辺地域の生活利便性・教育など社会インフラの整備状況、周辺の医療提供体制に関わる項目を収集してデータセットを構築した。地価と土地属性については国土交通省「土地総合情報システム」を、周辺地域の生活利便性、社会インフラに関する情報は、公開かつ無料利用可能な複数の地図情報システムを、当該地点付近の医療機関情報については、横浜市医療機関連携推進本部のデータベースより情報を得た。総サンプル数300のデータセットの基本統計量、相関分析をおこなった後、公示地価を被説明変数、諸特性を説明変数とするヘドニック・アプローチによる回帰分析を実施し、その係数から医療提供体制の価値評価を試みた。相関分析の結果では、当該地点の地価と近隣に存在する医療機関数にはいずれも統計的に有意な正の相関(p<0.01)が認められた。また当該地価と最寄りの医療機関との距離にも統計的に有意な負の相関関係(p<0.01)があった。ヘドニック地価関数の推定では、近隣に医療機関が増加することによる地価増加、或いは最寄りの医療機関までの距離が伸びることによる地価低下、医療機関の機能差による地価影響への差が各々確認された。推定係数の解釈上、教育環境や交通アクセスといった重要な利便性要因とほぼ同等、或いは同等以上に医療提供にかかる特性が地価への影響要因となることが示された。地価への増価効果を社会の価値評価の反映とすれば、地域の医療提供体制の在り様、とりわけ「近隣に医療機関が存在する安心感」といった外部効果について、社会が一定の高い価値を認めていることが推察される。医療提供体制のあり方を考えるにあたっては、現実の受療状況、配置上の効率性だけでなく、このような地域に対する外部効果にあたる価値をも明示的に評価、勘案していく必要があると考えられる。

研究ノート
  • ―事前知識が情報取得行動に与える影響についての実証的研究―
    伊藤 朱子, 長瀬 啓介
    2009 年 21 巻 2 号 p. 137-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    医療市場における消費者の事前知識が情報取得行動に与える影響について調査した。調査にあたり、医療市場で医療機関を選択するという意思決定を行う消費者の行動を、消費者の問題に対する知識とプロダクトライフサイクルに合わせた3段階、広範問題解決行動、限定問題解決行動、反復問題解決行動に分類した。
    質問用紙法を用いた調査を行い、まず、3段階について検証した。事前知識量は問題解決行動段階が進むにつれ多くなり、この分類をもとに情報取得行動との関係を検証することが出来ると考えられた。次に、3つの問題解決行動と情報取得行動の関係を検定したところ、情報探索量、参照する情報源の数は、問題解決行動の間に有意な差があり(有意水準1%)、その関係は、逆U字型であることが分かった。
    本調査の結果により、医療市場においても消費者の事前知識は情報取得行動に影響を与えるということが分かり、また消費者に情報を提供する際、3つの問題解決行動ごとに戦略を検討することが有効であると考えられた。

研究資料
  • 白岩 健, 福田 敬, 渡辺 茂, 津谷 喜一郎
    2009 年 21 巻 2 号 p. 155-170
    発行日: 2009年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    イギリスのThe National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)は1999年に設立され、今年で10年目を迎える。NICEの発行する技術評価のガイダンスでは医薬品の有効性、安全性に加えて医療経済評価も積極的に用いており、世界的な注目を集めてきた。このような特徴を持つNICEの技術評価ガイダンスについて、関係者へのインタビュー調査とその後の文献調査からNICEガイダンスの10年間におけるいくつかの大きな変化をまとめた。また、2000年から2008年度末までの9年間に発行されたガイダンスについて分析を行い、どのような意思決定を行っているかについて調査した。
    本稿ではイギリスNICEの10年にわたる医療技術評価の実践とその課題、そして医療技術評価がNHSで使用すべきかどうかの判断に利用されていた段階から、(実質的な)償還価格の設定にも影響を与えるようになってきた状況をまとめた。そして、9年間のNICEガイダンスの変遷を追うことにより、費用対効果の情報が年とともに意志決定に大きな影響を与えるようになっていることを明らかにした。
    イギリスのような医薬品価格を原則自由価格で市場メカニズムに価格をゆだねている国でも医薬品の価値と価格が必ずしも対応していない、すなわち「価値に基づく価格」(Value-based pricing)が実現していないという批判が起こっている。日本においても革新的な製品の適切な評価を行うための薬価制度改革が議論されているが、そもそも医療経済評価は医薬品の「価値」とその「価格」との関係を定量的に議論する手段のひとつであり、世界的には多くの国で意思決定に用いられている。適切な医療技術評価によって医薬品の価値が価格に反映されるような「価値に基づく価格」の仕組みについて日本でも議論が進んでいくことが期待される。

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