2010 年 21 巻 3 号 p. 305-325
国民健康保険制度が抱える様々な構造的な問麗を解決するために、国保保険者の都道府県への再編・統合は、現在の医療保険制度改革における重要な政策課題の一つになっているが、この改革案は実態を理由として提案されたものであって、科学的な根拠によるものではない。加えて、近年、いわゆる「平成の大合併」により、市区町村国保保険者は、ある程度(強制的に)統合されたため、新たに再編や統合を行う必要はない保険者も存在するかもしれない。そうした背景を踏まえて、本稿では、国保における一人当たり運営費が最小になる最小効率規模(MES)を推計した。この分析は、これまで実態ベースでしか議論されてこなかった国保の統合・再編問題に対して、統計的なエビデンスを提供するものと位置づけられる。
実証分析の結果、国保の一人当たり運営費には規模の経済性の存在が確認された。このことは、保険者の統合を行うことによって、この費用を削減できうることを示している。また、推定結果から計算されるMESと、2005年度末時点の被保険者数を、保険者ごとに比較した結果、平成の大合併がほとんど終了した後でも、約65%の保険者の被保険者規模はMES以下のままであった。具体的には、市区では約 9割、町村では約 6割の保険者において、被保険者数はMESを下回っていた。さらに、 MESと2005年度末時点の二次医療圏、及び都道府県の被保険者総数とを比較した結果、それがMESに満たない保険者は、前者では全市区町村保険者の約4%、後者では皆無であった。