2003年4月からDPC(Diagnosis Procedure Combination、診断群分類)による包括支払制度が、82の特定機能病院に対して導入され、2004年4月より、(導入を希望し一定の条件を満たす)一般病院に対して順次制度の施行が開始されている。米国等採用されている包括支払制度であるDRG/PPS(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System、診断群別定額払い方式)と異なり、我が国のDPCによる包括支払制度は、一日当たりの定額制となっている。さらに、この制度は完全な包括支払制度ではなく、DPCによる包括評価部分と従来の出来高評価部分に分かれている。DPCによる包括評価部分は基本入院料、検査、画像診断、投薬、注射、処置(1,000点以内)、リハビリ等で使用した薬剤料のみであり、他は、従来の出来高評価部分となっている。また、包括評価部分に関しては、DPCコードごとに基準となる入院期間 I、入院期間 II、特定入院期間が定められている。一日当たりの支払点数は、入院期間が長くなるほど低くなるように定められている。DPCによる包括支払制度の導入は診療報酬支払における大改革であり、医療資源の有効活用のための将来の支払制度の改革において、その適正な評価および分析は必要不可欠である。
本論文では、まず、病院間の在院日数の分析モデルを新たに提案した。このモデルは、トービットタイプのモデルでありCoxの比例ハザードモデル(proportional hazard model)などの既存のモデルを代替するもので、生存時間解析の問題一般に幅広く利用可能で既存のパッケージ・プログラムによって簡単に推定できるものである。次に、DPCによる包括支払制度導入前後の両方でデータが得られる5病院について、白内障手術における在院日数の変化の分析を行った。手術・処置等の違いの影響を除くため、片眼に白内障手術・眼内レンズ挿入術のみを行なった患者のデータを対象として分析を行った。患者数は2,533人である。この結果、制度導入以前の在院日数が短い病院では、制度導入後、在院日数の減少は認められなかった。一方、制度導入以前の在院日数が長い病院では、在院日数が短縮したことが認められた。この結果は、制度導入以前に在院日数が長い病院では在院日数を短縮しようとするインセンティブが働いたが、すでに短い病院では働かなかったとする仮説と整合的である。今後の制度の見直しにおいては、この点を考慮し、医療資源の有効な活用を図るための適正なインセンティブを与えるなどの制度の改善の重要性が示唆された。