2010 年 22 巻 1 号 p. 65-78
本研究では、熊本県のある自治体の国民健康保険(国保)被保険者全数を対象として、過去の健康診査(健診)結果を用いて、心血管リスク(高血圧、高血糖、脂質異常、肥満)の保有状況とその後の医療費の発生状況との関連を後向きに分析し、将来の医療費増大の予測因子を同定した。また、健診結果の評価指標として特定健康診査・特定保健指導の基準を適用し、同制度が将来の医療費に与えうる影響について考察した。医療費は2006年5月から2007年4月の1年分の国保レセプトを用いて算出し、1人当たりの医科・調剤医療費を従属変数とした。各自治体の2005年(1年前)、2001年(5年前)、1996年(10年前)の基本健康診査の結果を名寄せし、レセプトデータと被保険者単位で突合することにより各年の心血管リスク保有状況と医療費の関連について解析を行った。
解析対象者608人のうち、男性194人(32%)、女性414人(68%)であり、平均年齢は各72.6歳、70.8歳であった。男性では10年前の高血圧、1年前の高血糖、女性では5年前の高血圧、10年前の高血糖、5年前および10年前の肥満の各リスク保有群でリスクなし群に比べて、現在の1人当たり医科・調剤医療費が有意に高額であることが確認された。また、特に男性において、支援対象とならない肥満のない複数リスク保有者も将来の医療費が高額となる傾向がみられた。今後、レセプトデータ、健診データがさらに有効活用できるような環境整備が望まれる。