本論文では、地域の基幹病院の二次救急外来(救外)において、軽症患者を対象とする特別料金を導入すると、重症患者も含めた患者の救外受療率にどのような影響があるか、中部地方の一自治体病院における実証データを用いて考察した。
この病院では、時間外の救外に集中する軽症患者の受診を減らし、重症患者の治療に専念することを目的として、2008年4月から、診療報酬の時間外・深夜・休日加算を選定療養の時間外診療に変更し、患者負担を3割から10割にすることで、患者負担額を増やした。救外を受診した患者数を従属変数とするポアソン回帰モデルを作成することで、その特別料金導入前後における、重症患者(救急車で来院した患者と、受診後に入院した患者)と軽症患者(救急車以外の手段で来院した患者と、受診後に入院しなかった患者)の受療率を、受診時間帯、性、年齢、健康保険の種類別の受療率とあわせて求めた。
その結果、特別料金導入前後で、重症患者の受療率はほとんど変化がなかったが、軽症患者の受療率は6割程度に減少していた。この特別料金導入に先立って行われた、住民に対する救外適正利用の呼びかけが救外患者数に与えた影響は限定的であったが、特別料金導入後に見られた受療率の減少は、特別料金が請求されない時間内においても、時間外とほぼ同様であった。
軽症患者が集中し、重症患者の診療に支障を来している高次救急医療機関において、住民に対して救外適正利用を呼びかけるとともに軽症患者を対象とする特別料金を導入することで、軽症患者の数を選択的に減らせる可能性が示唆された。特別料金導入に伴って生じうる受診の遅れや差し控えによる患者の健康に対する影響を検討することは、今後の課題である。