医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
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23 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
論文
  • 稲田 晴彦, 小林 廉毅, 富田 守, 太田 信隆
    2012 年23 巻2 号 p. 95-106
    発行日: 2012/06/11
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では、地域の基幹病院の二次救急外来(救外)において、軽症患者を対象とする特別料金を導入すると、重症患者も含めた患者の救外受療率にどのような影響があるか、中部地方の一自治体病院における実証データを用いて考察した。

    この病院では、時間外の救外に集中する軽症患者の受診を減らし、重症患者の治療に専念することを目的として、2008年4月から、診療報酬の時間外・深夜・休日加算を選定療養の時間外診療に変更し、患者負担を3割から10割にすることで、患者負担額を増やした。救外を受診した患者数を従属変数とするポアソン回帰モデルを作成することで、その特別料金導入前後における、重症患者(救急車で来院した患者と、受診後に入院した患者)と軽症患者(救急車以外の手段で来院した患者と、受診後に入院しなかった患者)の受療率を、受診時間帯、性、年齢、健康保険の種類別の受療率とあわせて求めた。

    その結果、特別料金導入前後で、重症患者の受療率はほとんど変化がなかったが、軽症患者の受療率は6割程度に減少していた。この特別料金導入に先立って行われた、住民に対する救外適正利用の呼びかけが救外患者数に与えた影響は限定的であったが、特別料金導入後に見られた受療率の減少は、特別料金が請求されない時間内においても、時間外とほぼ同様であった。

    軽症患者が集中し、重症患者の診療に支障を来している高次救急医療機関において、住民に対して救外適正利用を呼びかけるとともに軽症患者を対象とする特別料金を導入することで、軽症患者の数を選択的に減らせる可能性が示唆された。特別料金導入に伴って生じうる受診の遅れや差し控えによる患者の健康に対する影響を検討することは、今後の課題である。

  • ─選択型実験法を用いた選好調査
    青木 恵子, 赤井 研樹, 青木 喜子
    2012 年23 巻2 号 p. 111-127
    発行日: 2012/06/11
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、看護職員不足解決のために、離職中の看護師免許保有者を対象とし、彼女たちが復職する際に望む職場環境の要因を、選択型実験法を応用したアンケート調査を用いて検証し、それを基に、復職希望者をスムーズに現場へと復帰させるための職場環境整備に対する提言を行うことである。調査はインターネットを用いて全国規模で行った。まず、看護師免許保有者であるかどうかのスクリーニングを行い、次に、その看護師免許保有者のみ本調査に進む。本調査は、看護職歴などに関する質問と選好表明法の1つである選択型実験法を用いた仮想的な病院選択である。

    分析は、現時点で看護職員として働いている現職グループ、離職しているが復職希望の有る復職希望有りグループ、そして、復職希望の無い復職希望無しグループの3つに分け、とりわけ、復職希望有りグループの再就業時の病院選択に対する選好に着目した。

    本研究の結果は次の通りである。復職を希望する人々のほとんどが、離職期間が短く、家庭の都合で復職が困難であるが、かつての職場への満足度が高く、また、復職時の希望時給額も現職看護職員や復職希望の無い人々よりも低いことから、可能ならば比較的安い賃金でも現場に復職したいと考えていることがわかった。さらに、復帰希望の有る人々は現職に比べて、日勤から夜勤のみに変わること及び日・夜勤になることへの支払意志額と土日が両日とも休みになることに対する支払意志額が突出して高く、夜勤を非常に嫌い、土日の休みを重視する傾向にあることがわかった。また、復職希望の有る既婚者は夜勤と土日の休みがなくなることを嫌う傾向が強いことがわかった。そして、復職希望の有る人々のうち、かつての職場での満足度が高い人々は夜勤を好まないことがわかった。

    以上の結果は、復職を希望している人々を現場にスムーズに復職させるためには、夜勤を避けて、できるだけ日勤勤務が可能で、かつ、土日が両日とも休みとなりやすい職場環境の実現が必要であることを示している。

    現職の人々も離職中の人々も夜勤への選好は負で有意であるが、支払意志額は現職の方がはるかに小さい。この点を考慮すると、現職の夜勤シフトを増やし、復職希望者をパートタイム的に日勤シフトに組み込むことが、病院経営者にとっては最も効率的に経営資源を配分することになる。しかし、全ての労を現職に負担させては、現職の離職率を上げる危険を招く恐れがあるため、復職希望者が、夜勤に比べて、土日が両日休みであることの支払意志額が比較的小さいことを考慮して、夜勤の多くなる現職に土日の両日休みを与え、パートタイムで日勤を希望する復職希望者を土日のいずれかに振り分けるのが効率的であると考えられる。

  • 四方 理人, 田中 聡一郎, 大津 唯
    2012 年23 巻2 号 p. 129-145
    発行日: 2012/06/11
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、Web調査を利用し、国民健康保険料の滞納、および、仮想的質問による医療保険が任意加入であった場合の保険料納付意思に関する分析をおこなったものである。

    分析の結果、以下のことが明らかになった。第1に、流動性制約仮説について、所得の影響は観察されなかった一方、低貯蓄の場合、滞納確率が高くなることが示された。また、非正規雇用者や失業者は経済的見通しが立ちにくいために、納付意思があるにもかかわらず保険料を滞納しやすくなる。第2に、逆選択仮説について、支払い意思と組み合わせた納付行動では、主観的健康度の影響がみられた。第3に、高額療養費に対する知識がある場合、任意加入での納付意思はないが滞納はしていない確率を低下させることから、強制加入により知識不足による滞納が防がれているといえよう。

研究資料
  • ─7カ国の比較調査結果と日本での応用可能性についての検討
    福田 敬, 白岩 健, 五十嵐 中, 小林 慎, 池田 俊也, 能登 真一, 下妻 晃二郎, 坂巻 弘之
    2012 年23 巻2 号 p. 147-164
    発行日: 2012/06/11
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    医療技術の経済評価においては、その標準的な方法論は確立してきているが、歴史的な経緯から各国の医療制度が種々の形態をとっているために、どのように制度の中で活用できるかは、各国の状況に大きく依存する。

    わが国においては、1992年から、新薬の薬価申請時に「医療経済学的評価資料」の添付が認められている。現時点では、新薬の価格算定における薬剤経済学研究の取り扱いルールが明確でなく、データを提出しても薬価への反映は明確でない。一方で、世界的には欧米諸国だけでなく、韓国やタイといったアジア諸国でも医療経済評価を活用する国々が現れはじめ、国際的に見てもわが国の取り組みは残念ながら後れをとっている。

    そこで本調査では、日本における制度的な応用可能性を検討するために、2011年2月から3月にかけて、医療経済評価を用いている代表的な7カ国(イギリス、スウェーデン、オランダ、カナダ、オーストラリア、韓国、タイ)を対象として、現地の医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)機関への調査を行った。

    調査した主なHTA機関は以下の通りである。(1)イギリス:National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE),(2)スウェーデン:Tandvårds-och läkemedelsförmånsverket(TLV, Dental and Pharmaceutical Benefits Board), (3)オランダ:College voor zorgverzekeringen (CVZ, Healthcare Insureance Board),(4)カナダ:Canadian Agency for Drugs and Technologies (CADTH),(5)オーストラリア:Pharmaceutical Benefits Advisory Committee (PBAC), (6)韓国:Health Insurance Review and Assessment Service( HIRA),(7)タイ:Health Intervention and Technology Assessment Program(HITAP)。各国のインタビューでは統一した質問票を用いて、主に(1)各国の医療制度・薬価制度、(2)HTA組織の概要、(3)医療経済評価の実施方法、(4)医療経済評価の政策への活用方法について、事前に作成した質問紙を用いて半構造化されたインタビューを行った。

    次にそれらの結果を受けて、わが国の制度における医療経済評価の活用方法について、生じうるメリット・デメリットとともに検討した。我々が検討したのは(1)保険償還や償還範囲の設定、(2)新薬の薬価算定、(3)既収載薬の薬価改定、(4)ガイダンスでの活用である。

    ただし、本検討における実施可能性等は慎重に考慮しなければならない。今後も医療経済評価の政策への応用に向けて、継続的に議論を重ねて行く必要があるだろう。諸外国の経験から学ぶべきところは多く存在するはずであり、本調査がそのような議論の出発点となりうるものと考えられた。

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