2012 年 23 巻 2 号 p. 111-127
本研究の目的は、看護職員不足解決のために、離職中の看護師免許保有者を対象とし、彼女たちが復職する際に望む職場環境の要因を、選択型実験法を応用したアンケート調査を用いて検証し、それを基に、復職希望者をスムーズに現場へと復帰させるための職場環境整備に対する提言を行うことである。調査はインターネットを用いて全国規模で行った。まず、看護師免許保有者であるかどうかのスクリーニングを行い、次に、その看護師免許保有者のみ本調査に進む。本調査は、看護職歴などに関する質問と選好表明法の1つである選択型実験法を用いた仮想的な病院選択である。
分析は、現時点で看護職員として働いている現職グループ、離職しているが復職希望の有る復職希望有りグループ、そして、復職希望の無い復職希望無しグループの3つに分け、とりわけ、復職希望有りグループの再就業時の病院選択に対する選好に着目した。
本研究の結果は次の通りである。復職を希望する人々のほとんどが、離職期間が短く、家庭の都合で復職が困難であるが、かつての職場への満足度が高く、また、復職時の希望時給額も現職看護職員や復職希望の無い人々よりも低いことから、可能ならば比較的安い賃金でも現場に復職したいと考えていることがわかった。さらに、復帰希望の有る人々は現職に比べて、日勤から夜勤のみに変わること及び日・夜勤になることへの支払意志額と土日が両日とも休みになることに対する支払意志額が突出して高く、夜勤を非常に嫌い、土日の休みを重視する傾向にあることがわかった。また、復職希望の有る既婚者は夜勤と土日の休みがなくなることを嫌う傾向が強いことがわかった。そして、復職希望の有る人々のうち、かつての職場での満足度が高い人々は夜勤を好まないことがわかった。
以上の結果は、復職を希望している人々を現場にスムーズに復職させるためには、夜勤を避けて、できるだけ日勤勤務が可能で、かつ、土日が両日とも休みとなりやすい職場環境の実現が必要であることを示している。
現職の人々も離職中の人々も夜勤への選好は負で有意であるが、支払意志額は現職の方がはるかに小さい。この点を考慮すると、現職の夜勤シフトを増やし、復職希望者をパートタイム的に日勤シフトに組み込むことが、病院経営者にとっては最も効率的に経営資源を配分することになる。しかし、全ての労を現職に負担させては、現職の離職率を上げる危険を招く恐れがあるため、復職希望者が、夜勤に比べて、土日が両日休みであることの支払意志額が比較的小さいことを考慮して、夜勤の多くなる現職に土日の両日休みを与え、パートタイムで日勤を希望する復職希望者を土日のいずれかに振り分けるのが効率的であると考えられる。