医療経済研究
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研究資料
DV(ドメスティック・バイオレンス)に起因する医療コストの推計手法について
武石  智香子
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 33 巻 1 号 p. 37-52

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抄録
  ドメスティック・バイオレンス(DV)の拡がりは社会の持続可能性を脅かす問題である。それに対して施策を講じるには、限られた資源をどう選択し配分するかという問題が伴う。透明性と説明責任を高めるための証拠に基づく政策において、社会的コスト推計はひとつの指標となる。本稿では、DV の医療コストに焦点を絞り、DV に起因する医療ケアの経済負担を推計する各種モデルを整理する。本稿でいう DV とは、配偶者とパートナーを含む IPV、いわゆる「親密なパートナーからの暴力」のことである。      日本には DV の社会的コスト推計は存在しないが、海外では公表されているものがある。たとえば米国では CDC(疾病対策予防センター)と NIJ(国立司法省研究所)が合同で実施し公表している調査、英国では国家統計局から公表されている調査、オーストラリアでは VicHealth(ヴィクトリア州健康増進基金)が公表している調査がある。しかしながらそれらの中には、計算方法がレポートおよび対応する研究論文において、必ずしも明示的に示されていないものもある。    上記で用いられた推計方法には、積み上げ方式、割合方式、統制後増分方式の、大きく 3 つのアプローチがある。積み上げ方式は、利用単位のコストあるいは被害者単位のコストを総和する。割合方式は、主として相対リスクからPAF(人口寄与割合)を計算して、全体コストの DV 分を割り出す方式である。統制後増分方式は、交絡因子を統計的に統制して、DV によるコスト純増分を推定する方式である。ただし DV の社会的コスト推計の既存文献を 3 つに分類した先行研究においても、推計方法の記述や計算過程に一部誤りが含まれているため、実際の推計方法を正確に把握することは容易ではない。    そこで本研究資料では、上記の代表的な研究を 3 つのアプローチごとに、結果の数値や関連論文を参考にしながら推計の計算過程を再構築し、そこから得た計算モデルを数式およびそれに対応する表にまとめることで整理と改善を行った。
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© 2021 本論文著者
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