人文地理
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香港の人文地理学―予察的分析―
タン ウィンシンチャン キムチン
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2008 年 60 巻 6 号 p. 516-532

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抄録

香港の人文地理学は,植民地から脱植民地への移行における実践の生み出す制度が抱える多様な空間性の中に状況づけられた実践として存在する。またその地理学的研究をとりまく物的な環境とは,それをどう理解するかの知識人のアウトプットからなり,諸実践を支える制度との相互作用からも生み出される。知の生産関係において,地方政府が統治を目的として行き当たりばったりに概念を充ててゆく一方で,香港の地理学者も,その地域の環境と同様なものを生み出す主流となる概念をやはり行き当たりばったりに土着化していったりすることはよくありえることである。

香港における人文地理学は,ここ30年ほどで大きく発展してきた。おおまかに見ると,香港における地理学研究は,たいていは定量的な方法論を用い,中国本土に強い関心を示してきた。実際,最近10年から20年の間に,顕著な「チャイナ・ターン」があった。こうした発展にもかかわらず,社会的レレバンスに対する関心が乏しく,この分野における「パラダイム・シフト」もなかったのである。本稿では,地元の地域の研究を含めた社会的レレバンスをめざして大きな一歩を踏む出すことを提案し,オルタナティブ地理学や批判地理学に対して目を見開き関心を向けることを結論とする。

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© 2008 人文地理学会
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