抄録
観客席とフィールドとの距離が近いことがスタジアムやアリーナなどスポーツ施設の評価に繋がることはしばしばスポーツファンの間で膾炙される。一方でスポーツ消費者行動研究において観戦者とフィールドとの物理的な距離に注目した研究は少ない。本稿では環境心理学における方法論的限界や建築計画学の研究蓄積を踏まえ、スポーツ観戦やスポーツ応援の魅力を論じるうえで改めて観戦者とフィールドとの距離に注目し、スポーツ消費者行動との関係について検討をおこなった。
上林(2017)のプロ野球スタジアムの体験―行動モデルを使用し、多母集団同時分析を用いた座席エリアによる群間比較をおこなうなかで等値制約モデルのパス係数から決定係数を算出し行動意図(再来場)に対するスタジアム体験3因子の影響度について比較した。
既存の6つの座席エリアにおいてはモデルの各因子得点に有意差は見られず、等値制約(因子得点平均値、切片)モデルにおいて各因子の影響度の違いが示された。
つづけて任意の座席エリアを設定し、座席との位置関係から観戦者とフィールドとの距離について検討を進めた。60m、90mで区切った等距離同心円形とファールエリアとの等距離平行線形の比較をおこなったところ、等距離平行線形において行動意図(再観戦)に比較的高い影響度を示す観戦臨場体験(71.35%)がフィールドからの距離が離れるにつれて小さくなり、90m以上離れた座席エリアにおいて影響度が0%まで減少するとともに、グループ観戦体験(23.72%)や飲食サービス体験(6.05%)の増加を確認できた。臨場感を得たいスポーツ観戦者はフィールドに近い観客席の前方を選好し、応援などグループ観戦体験を得たいスポーツ観戦者は球場全体を眺められる観客席の後方を選好する、従来経験則でしか語られてこなかった座席エリアの選好傾向について定量的に示すことができた。