抄録
S100A2はカルシウム結合タンパク質であるS100ファミリーに属するが, その機能はまだ明らかでない。喉頭癌においてその発現減少が予後不良と関連していること, 気道上皮細胞の発癌モデル系で悪性化に伴いその発現が段階的に減少することが指摘されている。本研究では, 気道上皮細胞においてS100A2が癌抑制遺伝子産物として機能しているかを知る目的で, RNA干渉法を用いて不死化ヒト気道上皮細胞1799でのS100A2発現抑制を試みた。S100A2遺伝子に特異的なshort hairpin RNAを発現するベクターを導入した細胞ではその発現は著明に抑制されていた。さらにS100A2発現欠如細胞は寒天培地でコロニーを形成する能力をもち, anoikis (接着喪失による細胞死) 耐性であるなど, 悪性細胞に特徴的な形質を示した。これらの結果はS100A2が癌抑制遺伝子として機能しているという仮説を支持するものである。