抄録
【目的】ミトコンドリア(Mt)の数や機能の低下は,加齢に伴う細胞機能低下の原因であるが,我々はウシ卵子を用いて,加齢に伴うMtの数や機能の低下を報告している。またブタを用いてMtの品質管理機構が卵子に存在すること,Carbonyl cyanide chlorophenylhydrazone(CCCP)でMtの膜電位を喪失させると,Sirtuin 1 (SIRT1)を介したMtの合成と分解(リニューアル)が亢進し,卵子の質が回復することを報告している。本研究では,若齢と加齢ウシ卵子にCCCP処理を施し,Mtをリニューアルする能力が若齢と加齢で異なるのかについて検討した。【方法】若齢(21–45ヶ月齢)および加齢(120ヵ月齢以上)黒毛和種の卵巣より卵子を個体ごとに採取し,Vehicle区とCCCP区(10µM)に分け2h処理行った。その後体外成熟を行い,SIRT1の発現量,活性酸素量,Mt数の動態,そして体外受精後の発生率を比較した。【結果】CCCP処理により卵子内ATP量は有意に低下した。若齢卵子ではCCCP処理によりSIRT1発現量が有意に増加したが,成熟培養後には試験区間の活性酸素量の差が認められなかった。しかし,加齢個体ではSIRT1量の上昇が起こらず,成熟培養後もCCCP処理区の活性酸素量が多かった。CCCP処理後,成熟培養を施した卵子では,加齢および若齢区ともにCCCP処理区間にMt数の差は見られなかったが,成熟培養をプロテアソーム阻害剤(MG132)添加条件下で行うと,若齢個体の卵子ではMt数がCCCP処理により増加し,加齢個体では変化は観察されず,若齢でのみCCCP処理によりMtの合成が亢進したと考えられた。さらにCCCP処理は若齢個体由来卵子の発生能力には影響を与えなかったが,加齢個体では有意に低下した。これらのことから,ウシではMtに障害を受けるとリニューアルを介して機能を回復するが,加齢個体ではこのメカニズムが破綻していることが示唆された。