薬史学雑誌
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詹糖香の基原植物
指田 豊
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2020 年 55 巻 2 号 p. 203-209

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抄録

目的:香の 1 種である詹糖香は「神農本草経集注」(502?536),「新修本草」(659)に初めて登場する.前書は樹の傷口から滲出する含油樹脂,後書はミカン類に似た植物の枝葉の煎じ液である.しかし,清代に至るまで基原植物の考察は行われていない.そこで,詹糖香の基原植物を明らかにする目的で研究を行った. 方法: 主として中国の本草書の調査を行った.詹糖香の基原植物と推定される植物については「新修本草」に基づいて濃縮水エキスを作った.エキスの香りは香司が評価した. 結果:唐の高僧,鑑真和上は海南島で詹糖香の樹を見ている.「唐大和上東夷伝」(779)に書かれた樹の特徴はゲッキツ Murraya paniculata(ミカン科)を思わせる.またその特徴は「新修本草」,「本草綱目」の記載と一致する.このように唐代(日本の平安時代)の詹糖香の基原植物はゲッキツである.清代の「植物名実図考」(1848)は詹糖香の基原植物をカナクギノキ Lindera erythrocarpa(クスノキ科)とした.現代の中国はこの説に従っている.しかしカナクギノキはミカン類とは似ていない.そこでゲッキツ,カナクギノのエキスが香として使えるかどうか実験を行った.「新修本草」に準じてエキスを作った.両エキスとも甘い香りがあり,香りの五味もよく似ていた.これらは香として十分使えるものであった. 結論:唐代の詹糖香の基原植物はゲッキツ,清代のそれはカナクギノキである.両植物から得たエキスの香りはよく似ており,香として使えるものであった.カナクギノキはゲッキツを産しない地域でその代用として使われたものと思われる.

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