薬史学雑誌
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北欧エストニアで 1422 年より現存するタリン市会館薬局--598年の歴史--
奥田 潤川村 和美大澤 匡弘
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2020 年 55 巻 2 号 p. 210-217

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抄録

目的:北欧エストニア国の首都タリンに,1422 年から現在まで,同一場所で 598 年間営業を続けている薬局がある.改修されているが,ヨーロッパでもっとも古いといわれる薬局でその名は「町(市)会館薬局」と呼ばれる.そこで本薬局の長期営業の歴史と理由を調べた. 方法:2018 年,Aarne Ruben 著「The Story of Town Hall Pharmacy」が出版された.2019 年,本論文の著者,川村・大澤が同薬局を訪問し,この英文の歴史書を入手し,写真を撮影した.奥田は,同書を要訳して本論文を作成した. 結果:同薬局が 598 年間継続した理由として次の 4 項目があげられる.1.本薬局の所有権は町(市)会館と薬剤師がもつ.2.半官半民の本薬局は,タリン市中心広場の東北角に位置し,顧客が得られやすく,市民から安心感と信用を得た.3.1583 年から 1911 年までの 328 年間は,ドイツ人 Burchart 家が 10 代にわたって本薬局を経営した.4.本薬局の歴代薬剤師と短期間代理を務めた医師が,人類愛の心をもち,ペスト流行時でも薬局から離れず,そのため市民から薬局が支持され続けた. 結論:半官半民の薬局の経営方法と 328 年に及ぶ Burchart 家の貢献と歴代薬剤師の愛情と責任感が,598 年にわたる本薬局の運営を可能にしたといえる.

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© 2020 日本薬史学会
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