薬史学雑誌
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日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷(その 26)日・米・英・独の各国薬局方に見られたホップ腺 Hopfenmehl(ルプリン Lupulin)の規格・試験法の変遷および対比ならびにホップ腺の成分についての知見
柳沢 清久
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2022 年 57 巻 1 号 p. 42-52

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抄録
目的:Lupulin(Hopfenmehl)はビールの原料として,長年にわたり,ビールに苦味,香り,泡立ちを付与するために使用されてきた.生薬に関して,Lupulin は苦味のある良薬として,鎮静薬,苦味健胃薬として使われた.かつて 1800 年代後半~1900 年にかけて,Lupulin は JP および USP,BP,DAB などの海外の薬局方に 収載された.そこで今回,著者はかつて JP,USP,BP,DAB に収載された Lupulin の規格・試験法の調査,検索を行った.また著者は 1800 年代後半~1900 年代前半,および近年の学術文献に示された Lupulin の樹脂,精油の化学成分の調査,検索を行った.そして著者はそこから収集した Lupulin の成分の学術情報から, Lupulin の鎮静作用の化学成分的根拠について考察を行った.さらに今日の薬学水準において,Lupulin の鎮静効果,および生物学的活性効果に関して,将来的に有効活用できる生薬となるか考えてみた. 方法:1)著者は 1800 年代後半の JP,USP,BP,DAB に収載された Lupulin の規格・試験法について,調査,検索を行った.2)著者は 1800 年代後半~1900 年代初めの学術文献に示された Lupulin の樹脂,精油の化学成分について,調査,検索を行った.3)著者は近年の学術文献に示された Lupulin の学術情報について,調査,検索を行った . 結果:1800 年代後半の各国薬局方に示された Lupulin の規格に関して,臭いと味の性状については,共通していた.臭いは強い芳香臭があり,味は非常に強い苦みを有することが示された.この当時の学術文献には,この苦味の素因は Lupulin の樹脂に含まれている Hopfenbitterstoffe であることが示された.その後の研究で,Hopfenbitterstoffe は弱酸性の 2 つの結晶化 Hopfenbitterstoffe に分離できることがわかった.それぞれについては,alfa- およびbeta-Hopfenbittersaeure と呼ばれた.近年の薬学水準の向上と化学技術,機器分析の進歩により,alfa- およびbeta-Hopfenbittersaeure の化学構造が解明された.そして alfa-Hopfenbittersaeure の Humulone がビールの醸造過程において Iso alfa-saeure(IsoHumulone)が生成される.それは肥満抑制,アルツハイマー型認知症の認知機能の改善に期待できる. 結論:Lupulin の苦味の素因の Hopfenbitterstoffe を構成する alfa-および beta-Hopfenbittersaeure の化学構造が解明された.そして Lupulin の鎮静効果の本質は Hopfenbitterstoffe と推察した.また Lupulin の苦みは多岐にわた る病態に対して,様々な薬効を発揮している.
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© 2022 日本薬史学会
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