2018 年 39 巻 p. 46-53
背景・目的 我々は、これまでに細胞温度が遺伝子発現を大きく調節する要因の1つである可能性を示す極めて独創的な研究成果を挙げている。本研究では温度に依存した遺伝子発現制御の分子基盤を明らかにし、病態や病因の温度に依存した影響を解明する。そのうえで本研究の成果が温熱療法による体温の変動に依存した新たな治療法や健康法の開発や改良に結びつくことを目指す。
方法 本研究では、分子生物学的・細胞生物学的実験とバイオインフォマティックスを用いて、温度に依存した遺伝子発現調節機構を解析し、温熱療法によるさまざまな効用の生体における機序を明らかにする。
結果 生育温度の異なるショウジョウバエとヒトの培養細胞を用いて、マイクロRNAによる遺伝子抑制効率を検討した。その結果、マイクロRNAは塩基対合における熱力学的性質により遺伝子抑制効果が制御されているため、温度に依存した抑制効果を示すことが明らかになった。さらに、化学修飾によりマイクロRNAは塩基対合する相手の遺伝子群が一斉に変わる場合があるだけでなく、熱力学的性質が変化することで、遺伝子抑制効果も大きく変動することがわかった。さらに、マイクロRNA二本鎖のうち、化学修飾により機能するRNA鎖が変換するマイクロRNAが存在することが明らかになった。
考察 体温や生育温度によって遺伝子発現のパターンが変動する分子メカニズムは不明であった。本研究によりマイクロRNAによる、温度に依存した遺伝子発現制御機構を明らかにすることができた。そのため、少なくとも温熱療法によってマイクロRNAによる遺伝子発現パターンを変動させる機構の一旦を明らかにできたと考える。本研究を土台とし、今後、温度に依存した疾患の原因や治療法の解明に結びつく可能性も期待できる。