抄録
はじめに : 超音波で動脈壁の微小振動を高精度に計測する位相差トラッキング法を用いて, 経皮的にヒト頸動脈の壁振動を計測した結果, 血流が主因と考えられる直流から数十Hzの周波数成分を含んでいることが分かった. これら動脈壁振動の内膜から外膜への伝搬周波数特性から, 動脈壁の粘弾性特性の推定を試みた. 方法 : 動脈壁組織をHookeの法則が成り立つVoigtモデルと仮定することによって, 求めた振動伝搬減衰の周波数特性から組織の粘弾性定数を推定する手法を提案し, 動脈壁の内膜と外膜の振動速度を超音波で同時計測した結果から, 動脈壁振動の伝搬減衰の周波数特性を求め, 動脈壁組織のずり粘弾性定数の推定を行った. 結果と考察 : 内膜側と外膜側の壁振動速度波形の周波数ごとの関連性を評価することにより, 血流により動脈壁内表面に直流から数十Hzまでの周波数帯域を持った微小振動が発生し, 内膜側から外膜側に伝搬していることが分かった. また, このずり弾性波の伝搬減衰の周波数特性から, 健常者の総頸動脈壁のずり弾性定数, ずり粘性定数の推定を試みた. 結語 : 本手法は, 他の加振源や応力計測の手段を必要とせず, 超音波で経皮的に計測した動脈壁振動の伝搬特性から組織の分別・同定を実現できる可能性を示唆している.