超音波医学
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原著
腹部大動脈瘤術後患者における胸部大動脈拡大と心機能低下に関する因子の検討
市川 奈央子椎名 由美村上 智明西畑 庸介小宮山 伸之丹羽 公一郎阿部 恒平
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2018 年 45 巻 2 号 p. 199-206

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抄録

背景と目的:腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm: AAA)術後遠隔期に,胸部大動脈が拡大・瘤形成(thoracic aortic aneurysm: TAA)に至り侵襲的治療が必要となる症例を少なからず経験する.さらに冠動脈狭窄病変の合併がなくとも心機能が低下する症例を認める.TAAに関する危険因子として高血圧,脂質異常などの動脈硬化因子が知られているが,AAA術後におけるTAA発症や心機能低下に関する危険因子は十分に知られていない.本研究では,AAAに対する治療としての人工血管置換やステントグラフト留置が血管コンプライアンスの低下やkinkingを生じることでTAA発症や心機能低下に関与するか否かを検討した.方法:AAAに対し人工血管置換術またはステントグラフト内挿術を施行した50例を対象に後ろ向き研究を行った.同年齢の15名をコントロール群とした.Computed tomographyと心臓超音波検査を用いて,術前後および遠隔期における胸部大動脈の拡大と血管stiffnessの変化,心筋リモデリングと心機能低下の有無を検討した.結果と考察:術後平均観察期間6.0±4.1年で,50例中10例(20.0%)に弓部大動脈の拡大を認めた.血管拡大群における胸部大動脈のstiffness indexは遠隔期に増大しており(p=0.02),人工血管・ステントグラフトのkinking(>60°)の進行が著明であった(p=0.03).また拡大群において遠隔期に左室global longitudinal strain は低下し(p=0.02),左室心筋重量の増加を認めた(p=0.02).単変量ロジスティック解析においてkinking,遠隔期の血圧,脈圧,脂質異常が胸部大動脈拡大に関与する因子であった.結論:AAA術後患者において人工血管置換やステントグラフト留置による血管コンプライアンスの低下やkinkingがTAA発症や心機能低下と関与している可能性が示唆される.特に胸部大動脈拡大群において遠隔期に血圧の上昇を認め,遠隔期の厳密な血圧コントロールは重要な要素と考えられる.

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© 2018 公益社団法人 日本超音波医学会
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