2019 年 46 巻 1 号 p. 25-33
急性腹症におけるPoint-of-Care超音波(POCUS)について述べた.5W1Hの視点から考えると,POCUSとは救急現場における第一線の医師によりなされるものであり,救急室のみならずあらゆる状況で行われる.つまり,「いつでも,どこでも,誰でも」行うべきものであり,これにより時間,侵襲,経済などあらゆる面での診療の効率化が期待できる.次に「何を,何のために,どのように」であるが,POCUSの基本的性格として比較的短時間で簡便な手技であることを考えると,急性腹症におけるフレームワークの構築は容易ではないが,本稿においては腹部の8ヵ所を走査する“6アプローチ”を提唱した.これにより比較的頻度の高い疾患は概ねカバーできると期待されるが,POCUSの診断能は検者依存性のみならず機器性能にも大きく影響されるため,特に陽性所見がない場合の判断には注意を要する.またPOCUSを普及させるためには,そのトレーニングが必要であり,誰が何をどのように教育するかに関して現時点では本邦で一定の見解はない.最低限必要な事項としては超音波工学の基礎,正常な超音波解剖とその描出,異常な超音波像の解析,そして急性腹症症例への実践が挙げられる.まずはフレームワークの確立とともに,各地における指導者の養成が重要な課題であるが,そのためには各診療科の協力も必要とされ,各領域の専門家が参加している日本超音波医学会がPOCUSの推進における主導的な存在となることが望ましいと考える.