論文ID: JJMU.R.264
消化管領域に於けるパニック所見には緊急所見(直ちに報告)の設定はない.準緊急所見(速やかに報告)としては,絞扼性腸閉塞の可能性が示唆される「蠕動の消失した腸管拡張」と「multiple concentric ring sign」に,消化管穿孔が疑われる「フリーエアー」を加えた3つが設定されている.蠕動消失の判定は腸の動きの所見に加えて内容物の沈殿の有無も確認する.絞扼性腸閉塞を直接疑う所見が得られればその旨を合わせて報告し,もしも単純性腸閉塞やイレウスとの鑑別が困難な場合には無理に鑑別を行わずにパニック所見として対応する.絞扼性腸閉塞の原因疾患としてはヘルニアの嵌頓や索状物による圧迫,捻転などが多く,これらの多くはclosed loop obstructionを形成する.例外として腸壁の一部のみがヘルニア門から脱出するRichter型ヘルニアや腸重積などが挙げられる.Multiple concentric ring signは腸重積でみられる特徴的超音波(Ultrasound:以下US)所見であり,重積腸管部分が短軸像で高エコーと低エコーの層からなる同心円状多層構造を呈する.小児の場合は90%以上が器質的疾患のない特発性で回腸結腸型が多く,成人では約7割が腫瘍を病的先進部として発症する.フリーエアーは90%以上が消化管穿孔によるものであり,原因疾患としては絞扼性腸閉塞をはじめとした虚血性腸疾患,消化性潰瘍,悪性腫瘍,急性虫垂炎や大腸憩室炎など多岐に亘る.フリーエアーのUS像は,ガスの反射によるstrong echoと,その後方に生じるアーチファクト(多重反射やコメット様エコー)によって認識されるが,小量の場合は消化管穿孔を疑って能動的に探しに行かなければ検出できないことが多い.