2018 年 10 巻 1 号 p. 90-106
世界的にみると、看護における高度実践の役割を作り出すことによって、患者へのケア、地域社会の健康、そして社会全体の健康が改善されることが見込まれる。看護における高度実践の役割はこれまでにさまざまな理由をもとに作られてきたが、その理由は国によって微妙に異なるかもしれない。看護職の視点から見た場合、看護における高度実践の役割がこれほど拡大浸透した注目すべき理由の一つとして、看護師がよりレベルの高い教育を受け、より高度な専門知識を身につけることで、以前に比べて、看護師が患者のニーズをより広い範囲で捉え、包括的に評価できるようになった、という点があげられる。しかしながら、他職種が高度実践看護師の実践をコントロールし、看護本来の目標を外れて別の目的のためにその実践に指図したがるのではないか、というのが、看護における高度実践の役割にまつわる懸念である。アメリカでは、こうした他職種の動きは以前から今に至るまで常に用心しなければならない問題である。したがって、アメリカにおけるこのような状況を知れば、日本を含め、他国での高度実践看護はどのようなことに注意すればよいかが理解できる。高度実践看護は看護の役割の一つであり、看護以外の目的や他職種の意図する目的に合わせる形で方向を見誤ってはいけない。看護職とは「善」をもたらすもの、すなわち社会に奉仕する存在であり、したがって、すべての看護行為には倫理的な面がある。日々の看護実践に本質的に備わっている倫理を受け入れることは、倫理に関する専門知識を涵養するのに重要であり、結果的にそれが看護の目標に適うことでもある。理由の如何にかかわらず、看護師が自らの目指す目標への道筋を逸脱すれば非難される。より高いレベルの専門知識と教育を伴った高度実践看護師は、率先して行動するのに理想的な立場にある。学校の課程で教えるにしても、現場で経験させるにしても、高度実践看護師を養成する教育において極めて重要な要素は、学ぶ者に倫理に関する専門知識を授け、身につけさせることにある。倫理に関する専門知識があれば、結果として、他の人たちも積極的に率先して活動できるようになる。職場の同僚や関連職種の人たち、そして看護師も然りである。本講演では、看護と倫理の切っても切れない本質的な関係について考察し、高度実践看護師が倫理的配慮の行き届いたケア環境を生み出すのに率先して活動できる理想的な立ち位置にあるということを示す。倫理的な意思決定を自信をもって行うのに必要な技術と能力、そして、高度実践看護に求められる倫理の専門知識を涵養し続けるための方略を示す。倫理的な実践環境を支え発展させていく一つの方法として、看護における高度実践の指導的役割について提案したい。