日本看護倫理学会誌
Online ISSN : 2434-7361
10 巻, 1 号
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巻頭言
日本看護倫理学会10周年記念メッセージ
鼎談
  • 2018 年 10 巻 1 号 p. 5-7
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    日本看護倫理学会学会誌は今号で10巻を迎えました。これもひとえに会員のみなさまのご支援の賜物と厚く感謝申し上げます。編集委員会では刊行から10年という節目にあたり、小西恵美子編集委員会初代委員長と坂田三允現委員長、そして、田中髙政初代および現副委員長の鼎談を企画しました。学会のコアな部分を占める学会誌というプロダクトを一から作り上げた開拓者達のphilosophyを、看護倫理に関わるすべての方たちと本企画で共有することは、今後の看護倫理学の発展に必ず役に立つのではないかと考えます。そこで、日本における看護倫理学のその時々の「いま」を実践および学問という切り口で広く社会に発信し続けてきた日本看護倫理学会誌の編集に携わる者からみた、日本看護倫理学会誌と、日本における看護倫理学の過去と未来について語って頂きました。

原著論文
  • 西田 絵美
    2018 年 10 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    〈ケアリング〉は看護の中核的概念と認識されているが、本質的把握は十分ではない。本研究は、看護における〈ケアリング〉概念の再定位を試みることを目的とした。看護師は患者と向き合う経験を積み重ねて〈実践知〉を形成し、固有の看護実践を自ら作り出す。看護実践が〈実践知〉へ変容するには、〈洞察〉と〈内省〉が不可欠である。看護師を洞察と内省に向かわせるのは、「相手に寄り添いたい、寄り添わねばならない」という患者への思いである。〈ケアリング〉は、看護実践の一部分ではなく、行動と心情が複合的に絡み合って一連の行為として表出された看護実践そのものである。看護における〈ケアリング〉は、患者への能動的な思いや願いを根底にもった〈実践知〉としての看護実践全体である。〈ケアリング〉の基底で〈ケアリング〉を支えているのは、看護師として患者にどう向き合うかということであり、それは看護師としての生き様であるといえる。

  • 前田 朝子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 16-25
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    目的:中小規模病院の看護師長の経験に含まれる倫理的問題に焦点をおき、倫理的問題とその対応、さらにその特徴について明らかにする。方法:中小規模病院(200床未満)の看護師長8名を対象とし、半構造化面接で得たデータを質的帰納的に分析した。結果:倫理的問題として【病院の経営上の方針に対し問題を感じるが従わざるを得ない】【自施設での治療の継続・ケアの提供が患者にとって適切な医療かどうか悩む】を含む6カテゴリーが、対応として《自分の考えを伝え、スタッフと共に考える》を含む6カテゴリーが抽出された。考察:【自施設での治療の継続・ケアの提供が患者にとって適切な医療かどうか悩む】は、設備・医療体制が整っている大病院にはみられない中小規模病院の看護師長に特徴的な倫理的問題と考えられた。上司や他看護師長に相談する対応はみられず、倫理的問題を話し合うフォーマルな機会と場の構築の必要性が示唆された。

  • 長崎 恵美子, 伊東 美佐江
    2018 年 10 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、臨床看護師の倫理的問題の体験と教育の機会や知識の認知度を病院の規模別に明らかにした。大規模(301床以上)と中小規模(300床以下)病院に就業する看護師230人を対象とし、「ETHICS and HUMAN RIGHTS in NURSING PRACTICE」の日本語版に独自の項目を加えた質問紙で回答を得た。大規模病院が中小規模病院より倫理的問題の体験が多く、「インフォームドコンセントの有無」、「患者の権利と尊厳の尊重」、「どこから死とするか」、「個人的・宗教的価値に反して行動する」、「健康に危険の及ぶ可能性のある患者のケア」が有意に多く体験していた。教育の機会は大規模病院が多く、用語の理解の認知度や教育の必要性、倫理の関心度も大規模病院が高かった。教育の機会があると、知識だけでなく関心も高くなり、倫理的問題を捉えやすくなる。倫理的感受性を含めた教育内容の充実が必要と考える。

  • 角 智美, 森 千鶴
    2018 年 10 巻 1 号 p. 36-44
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、臨床看護師の倫理的感受性を測定する尺度を開発し、その信頼性と妥当性を明らかにすることである。文献等から臨床看護師が日常的に体験する倫理的問題100事例を抽出後、専門家会議と予備調査等を経て、28項目の試作版を作成した。この試作版を7施設1,911名の看護師を対象に無記名自記式で調査を実施した。有効回答率は63.1%であった。項目分析、探索的因子分析の結果、[尊厳の意識][専門職としての責務][患者への忠誠]の3因子19項目が抽出された。全19項目のクロンバックα信頼性係数は0.80であり、内的整合性が確認された。また構成概念妥当性を既知グループ技法で検討した結果、看護倫理研修を受講した看護師は、受講していない看護師よりも得点が有意に高かった。これらのことから本尺度の信頼性、妥当性が確認され、臨床看護師の倫理的感受性を測定する尺度として活用が可能であると考えられた。

短報
  • 道上 勝春, 大出 順
    2018 年 10 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    A病院における精神科看護師の倫理的行動の実態を明らかにすべく、看護師と准看護師の158名に看護師の倫理的行動尺度と倫理的行動で問題に感じていることついての自由記載の欄を設けた質問紙調査を行った。その結果、役職では一般群より役職群のほうが倫理的行動尺度の得点と精神科歴では経験年数10年以下の看護師より経験年数11年以上の看護師のほうが倫理的行動尺度の得点が高く、倫理的な行動がとれるよう円熟していくのには、10年という経験年数が一つの区切りとして考えられる。また、自由記載は25のコード、10のサブカテゴリ、4のカテゴリとなり、カテゴリは【感情のコントロールとケアの質】【職場環境によるジレンマ】【時間と人員の不足によるジレンマ】【看護者自身の資質】と分類された。精神科病院という患者の行動を制限せざるを得ない療養環境において、日々悩みながらも看護師個々の倫理観を養い、職場環境作りをしていくことが重要と考える。

  • 田島 康子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    目的:インフォームド・コンセント(以下IC)に関わる看護師のための教育プログラム開発に向けて、事例検討会を通して看護師の教育上の課題を明らかにする。方法:13名の学習会参加者の発言の逐語録をデータとして、質的帰納的に分析した。結果:ICに関わる看護師の教育上の課題は〈ICの概念と定義の理解〉、〈ICに関わる看護師の役割の理解〉、〈ICにおける記録の理解〉、〈ICにおける患者と家族の立場の理解〉、〈医師・看護師・他職種の医療者との連携〉、〈意思決定と支援方法の理解〉、〈ICに対する具体的な関わり方〉の7つが見いだされた。結論:ICに関わる看護師の教育上の課題が明らかになり、教育プログラムの開発に貢献できる可能性が示唆された。

  • 石原 逸子, 赤田 いづみ, 福重 春菜, 玉田 雅美
    2018 年 10 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、米国で開発された改訂倫理的悩み測定尺度を日本語版改訂倫理的悩み測定尺度(Japanese version of MDS-R; JMDS-R)として開発し、その信頼性、妥当性の検証を目的に行った。作成者より使用許可を得て翻訳、逆翻訳を行い、研究者らによる一致率で質問項目の妥当性を判断した。調査は、関西圏の300床以上の急性期病院看護師を対象に1,307部配布し、770部の回答を得た。経験年数、燃えつき尺度、離職意図との間に弱い正の相関を示し、看護師の労働環境(JNWI-R)との間では、弱い負の相関を示した。因子分析では、14項目3因子が抽出され、α信頼係数は、0.86であった。各因子のα信頼係数、因子間の相関係数により、JMDS-R 14項目の信頼性、妥当性が確認され、日本語版としての使用可能性が示された。

  • 中釜 英里佳, 小野 美喜
    2018 年 10 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、ブログによる闘病記を研究分析対象とする文献研究の倫理的配慮について国内外の文献から知見を得ることである。CINAHL with Full Textで検索した海外文献11件、Web版医学中央雑誌で検索した日本語文献2件を分析した。ブログによる闘病記は広く一般に公開されている文献と解釈されて研究が実施されており、研究倫理審査委員会への申請要否、匿名性の保持と研究参加への同意の確認について記載があった。まだブログの闘病記を研究対象とする際の倫理的配慮の見解はさまざまである。ブログを対象とした文献研究の実施については研究計画の時点で議論し、ブログ著者に対する配慮を講じる必要がある。

  • 福田 順子, 山本 鯉恵, 野村 真由美, 田中 眞里子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、退院先について思いの異なる独居高齢患者と家族への退院支援のあり方について考察することを目的とした。今回、筆者らを含む看護チームは自宅退院を切実に希望する高齢患者に対し独居生活が可能であるかアセスメントを行い、この患者の自己決定を尊重することは可能であると判断した。しかし、血縁者である娘たちから自宅退院の同意を得ることに困難を極めた。患者と家族、それぞれの思い、背景にある事情を考慮しつつ退院支援を行う中で、介護に対する思考にはジェンダー差が存在し、女性特有の「介護の現実思考」と男性特有の「家族一体規範」があること、そして、両者の視点がよりよい形での「家族一体」を作り上げ、高齢者の自己決定をサポートする一助となることが示唆された。

レター
日本看護倫理学会第10回年次大会
大会長講演
海外招聘講演
  • Pamela J. Grace, 宮内 信治
    2018 年 10 巻 1 号 p. 90-106
    発行日: 2018/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    世界的にみると、看護における高度実践の役割を作り出すことによって、患者へのケア、地域社会の健康、そして社会全体の健康が改善されることが見込まれる。看護における高度実践の役割はこれまでにさまざまな理由をもとに作られてきたが、その理由は国によって微妙に異なるかもしれない。看護職の視点から見た場合、看護における高度実践の役割がこれほど拡大浸透した注目すべき理由の一つとして、看護師がよりレベルの高い教育を受け、より高度な専門知識を身につけることで、以前に比べて、看護師が患者のニーズをより広い範囲で捉え、包括的に評価できるようになった、という点があげられる。しかしながら、他職種が高度実践看護師の実践をコントロールし、看護本来の目標を外れて別の目的のためにその実践に指図したがるのではないか、というのが、看護における高度実践の役割にまつわる懸念である。アメリカでは、こうした他職種の動きは以前から今に至るまで常に用心しなければならない問題である。したがって、アメリカにおけるこのような状況を知れば、日本を含め、他国での高度実践看護はどのようなことに注意すればよいかが理解できる。高度実践看護は看護の役割の一つであり、看護以外の目的や他職種の意図する目的に合わせる形で方向を見誤ってはいけない。看護職とは「善」をもたらすもの、すなわち社会に奉仕する存在であり、したがって、すべての看護行為には倫理的な面がある。日々の看護実践に本質的に備わっている倫理を受け入れることは、倫理に関する専門知識を涵養するのに重要であり、結果的にそれが看護の目標に適うことでもある。理由の如何にかかわらず、看護師が自らの目指す目標への道筋を逸脱すれば非難される。より高いレベルの専門知識と教育を伴った高度実践看護師は、率先して行動するのに理想的な立場にある。学校の課程で教えるにしても、現場で経験させるにしても、高度実践看護師を養成する教育において極めて重要な要素は、学ぶ者に倫理に関する専門知識を授け、身につけさせることにある。倫理に関する専門知識があれば、結果として、他の人たちも積極的に率先して活動できるようになる。職場の同僚や関連職種の人たち、そして看護師も然りである。本講演では、看護と倫理の切っても切れない本質的な関係について考察し、高度実践看護師が倫理的配慮の行き届いたケア環境を生み出すのに率先して活動できる理想的な立ち位置にあるということを示す。倫理的な意思決定を自信をもって行うのに必要な技術と能力、そして、高度実践看護に求められる倫理の専門知識を涵養し続けるための方略を示す。倫理的な実践環境を支え発展させていく一つの方法として、看護における高度実践の指導的役割について提案したい。

講演I
講演II
シンポジウムI
シンポジウムII
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