日本鳥学会誌
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原著論文
伊豆沼・内沼周辺地域で越冬するマガンの個体数増加にともなう採食地利用パターンの変化
嶋田 哲郎溝田 智俊
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2008 年 57 巻 2 号 p. 122-132

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抄録

宮城県北部地域の低地は,日本列島で越冬するマガンの80%以上がみられ,東アジア地域で越冬するガン類の主要な越冬地となっている.ここでは1971年の狩猟禁止以降,個体数の指数関数的な増加がみられ,また,近年米価の低迷に誘起された大豆の作付面積が増加している.伊豆沼・内沼周辺地域において1997/98,1998/99年と現在の餌資源利用の時間空間的な分布の違いを比較することで,個体数および大豆作付面積の増加がマガンの採食行動にどのように影響したのかを明らかにした.餌資源量をみると,落ち籾現存量は9月下旬以降の収穫直後には平均65 kg/ha(N=6,範囲52~78)であった.落ち籾は沼に近い水田から減少が始まり,順次遠距離にある地点 (10~12 km) の水田でも12月上旬までにほぼなくなった.減少率は95%であった.落ち大豆現存量は平均355 kg/ha (N=9,範囲120~940) で,収穫後11月中旬,1月中旬にかけて増加し,現存量計測後2~23日,平均して10日以内に採食された.2007/08年では,11月にはほとんどの群れが水田を利用したが,12月以降,落ち籾が減少するか,あるいは地域的に枯渇する時期になると大豆圃場群に集中した.一方,1997/98,1998/99年の採食分布をみると,マガンは水田のみを利用し,11月にはマガンは沼周辺の水田で採食し,季節の進行とともに採食範囲を拡大し,1月には遠距離の水田で採食した.10年前は現在と比較して大規模な大豆圃場はなく,加えて個体数が少なかったため,籾資源量の減少に対応して沼の近くから遠くへと採食する水田を移動することで越冬に必要なエネルギーを確保できた.しかし現在,マガンは個体数増加にともなう落ち籾の消費速度の増加と大豆圃場の増加に対応して越冬期前半は落ち籾,次いで後半は落ち大豆へと餌資源を転換していると考えられる.

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© 2008 日本鳥学会
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