石川県加賀市の片野鴨池で越冬するオオヒシクイ Anser fabalis middendorffii は,池の底に沈んでいるヒシ類の実を採食するが,拾い上げたすべての実を採食するわけではなく,採食せずに投棄する場合がある.この行動がオオヒシクイによるヒシ類の実の選択であると考え,調査を行なった.2009年,2015年,2016年と2017年の越冬期前に,鴨池内のオニビシが繁茂している区域にオオヒシクイの採食を阻害するためのネットを設置して非採食区を設定し,翌春に非採食区内とそれ以外(採食区)でヒシ類の実を回収して個数と乾燥重量,サイズを比較した.ヒシ類の実の密度は2016年の越冬期後を除いて非採食区の方が高かった.平均乾燥重量はすべての年で非採食区の方が軽く,2009年と2017年の越冬期後には有意な差が検出された.ヒシ類の実のサイズは2015年を除いて非採食区の方が小さかったが,有意な差は検出されなかった.オオヒシクイが採食したヒシ類の実の大小比と,越冬期後に非採食区から採集したヒシ類の実の大小比には有意な差が検出された.オオヒシクイの採食行動をその結果から失敗,廃棄,小ヒシ採食,大ヒシ採食の4つに分け,それぞれにかかった時間を比較したところ,大ヒシを採食するのに必要な時間は小ヒシを採食する場合と比較して3倍ほど長く,有意な差が検出された.これらの結果から,オオヒシクイは小さい実を選好しており,それによって採食効率を高めている可能性が示唆された.