2026 年 75 巻 1 号 p. 13-34
高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)は,カモ類などの野生鳥類がキャリアとなり,渡り鳥を介して急速に拡散され,世界各地で様々な分類群の野生鳥類の大量死を引き起こしている.高病原性鳥インフルエンザをはじめとする野生動物疾病サーベイランスの体制は世界各国で整備され,検査結果が共有されているものの,いまだに地域によるデータの偏りや鳥種による感染リスク評価の進行度合いの差は大きい.しかしながら,野生鳥類の中でも,HPAIVのキャリアとなる種や脆弱な種は急速に変化しており,ウイルスの変異や野生鳥類における被害を監視するためにも,持続可能なサーベイランスが必要とされている.野生鳥類の生態に基づいた鳥インフルエンザ研究は,鳥インフルエンザウイルス(AIV)と自然宿主鳥類の関係により生じるHPAIVの拡散メカニズムを予測するだけではなく,脆弱な野生鳥類種の被害の把握や大量死発生後の保全策,家禽農場におけるHPAIV侵入防止対策の提案まで幅広い.本総説では,野生動物疾病サーベイランスの在り方に加え,鳥類生態学によるAIVを対象としたOne Healthアプローチ研究により,特に獣医学や環境科学との連携を中心に,環境汚染物質との複合的な影響評価,気候変動予測,鳥類保全,大量死発生地域の生息地管理などのこれからの研究の展望を示した.