2016 年 17 巻 1 号 p. 33-41
本稿では、エビデンスを「つくる・つたえる・つかう」運動であるEBP(Evidence-based practice)の観点から、社会的投資のための評価ツールのひとつであるSROI(Social Return On Investment: 社会的収益投資)について批判的検討を行った。まず、SROIの普及状況について概説した後、SROIがCBA(Cost-Benefit Analysis: 費用便益分析)の一種であることを確認し、Nicholls et al.(2009)に従って、SROIの原則、SROIの手順について概観した。これを踏まえて、Arvidson et al.(2010, 2013)によるSROIに対する、的を得た8つの批判を紹介した。その後、SROIに関する具体例の検討を行い、SROI比率算定における恣意性やSROI比率がインフレートされる可能性を見出した。最後に、福祉国家論における社会的投資の役割についての考察を踏まえ、SROIは、投資対象としての事業や組織を評価するためではなく、EBPが長年にわたり行ってきたように、社会的共通資本としてのセクターの漸進的改善を支援するために用いられるべきであると主張した。