2021 年 33 巻 2 号 p. 177-182
本特集では,特定産業に着目して,人びとが地域のなかで,家族生活と労働に主体的に取り組む実態を観察する方法を検討する.われわれは,高度成長期に,多くの構造転換・移転と個別の移動が発生し,社会の分岐が深刻化し,それが現代社会の階層構造の原点であると考えている.本特集では,農業,紡績業,石炭産業の3産業を取り上げ,地域社会における労働者とその家族の動態を検討する.いわば実態面から日本型近代家族を問う作業である.これまで地域差や階層差という説明にとどまってきた家族研究の隘路への挑戦でもある.皮肉なことに,2020年に発生したコロナ禍は,「エッセンシャルワーカー」「不要不急」の識別によって,都市においても,産業特性が人びとの家族と労働すなわち「愛することと働くこと」を強く規定することを露呈した.本特集での検討は現代日本における諸問題の源流を把握する作業である.