抄録
目的: 加齢の進行に伴い, 中枢神経および末梢神経系システムに様々な変化が生じることはよく知られている. 痛覚受容も加齢による影響を受けている可能性は充分考えられる. 本研究は, 加齢に伴う侵害受容システムの変化を解明することを目的とした.
研究の方法: Fisher系ラットにおいて, 29-34ヶ月齢を老齢ラット, 7-13ヶ月齢を成熟ラットとして使用した. 侵害刺激に対する逃避行動や侵害受容ニューロンの応答および痛覚情報マーカーなどを電気生理学または免疫組織化学的手法を用いて, 詳細に解析した.
結果: 老齢ラットは侵害刺激に対する反射は亢進しているが, 痛みの認知機能が低下していることがわかった. 老齢ラットの方が成熟ラットより, 侵害受容ニューロンの自発放電や侵害刺激に対する応答が非常に多いことが明らかになった. 老齢ラット脊髄後角のセロトニンおよびノルアドレナリン合成酵素含有線維は, 成熟ラットに比べ減少していることがわかった. ナロキソン静注後, 口髭部へカプサイシン刺激したとき, 成熟ラットの三叉神経脊髄路核内に発現したpERK陽性細胞数は増加したが, 老齢ラットでは変化がなかった.
結論: 加齢に伴う異常疼痛は, 痛覚の上行路と下行路のバランスが崩れることによって起こることが考えられる. この原因として, 下行性疼痛抑制系の機能低下が示唆される.