抄録
症例の概要:患者は59歳女性,上顎左側小臼歯部と左側三叉神経第Ⅱ枝領域の激痛と異常感覚を主訴に来院した.症状は3年前に左側上顎洞嚢胞摘出術を受けた直後より突如発症し,さまざまな医療機関を受診するも全く改善しなかった.痛みの性状は左側三叉神経第Ⅱ枝領域に刺されるような電撃痛が出現するのに加え,1日中継続する持続性疼痛がみられた.初診時には典型的ではないものの三叉神経痛を疑い,カルバマゼピン100mg/dayを処方したところ,電撃痛は減弱したが持続痛は残存した.MRI撮影を行ったところ,三叉神経の神経血管圧迫を認めた.また左側の側頭筋に左側小臼歯部へ関連痛を伴うトリガーポイントを認めたため,マッサージ指導を行い,さらに痛みは減弱したが,アロディニアを伴う違和感と疼痛が残存したため左側星状神経節ブロック(SGB)と,硫酸マグネシウムとリドカイン塩酸塩の点滴静脈注射を施行したところ,痛みは自制の範囲内に治まった.現在はSGBと点滴を併用することで痛みはコントロールされている.
考察:患者の痛みは左側三叉神経第Ⅱ枝領域の複合性局所疼痛症候群(CRPS)様の神経障害性疼痛と三叉神経痛様症状の併発を主症状とし,さらに筋筋膜痛による歯痛の併存が考えられた複雑な病態であった.
結論:口腔顔面痛の臨床において,疼痛を惹起する原因は多岐にわたる.慎重な診断と様々なアプローチを行うことが患者のペインコントロールに重要であると考えられた.