日本口腔顔面痛学会雑誌
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13 巻, 1 号
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総説
  • 文献レビュー
    前川 賢治, 窪木 拓男
    2021 年 13 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者人口の増加に伴う認知症の有病率上昇は,介護,医療の負担を増大させる深刻な社会問題となっている.本疾患による自立低下は,口腔内のセルフケア能力の低下などを介して健全な口腔,咀嚼機能の維持を困難とし,口腔顔面痛疾患罹患のリスクを高めることが予測される.しかしながら両者の関係については不明な点が多い.本総説の目的は,現時点での認知機能低下,認知症と口腔顔面痛の関係に関する知見をまとめ,今後の問題点と展望を考えることである.
    研究の選択:認知機能低下,認知症と口腔顔面痛をキーワードに,PubMedと医中誌から文献検索を行った.定めた検索式で抽出した原著論文の文献数は少なく,検索から採用した文献の引用文献と,ハンドサーチで得られた文献をもとに文献レビューを行った.
    結果:認知機能低下,認知症高齢者においては口腔顔面痛の有症状率が高いという報告と,低いことを示す結果を得た報告が存在した.口頭で痛みを訴えることができない状態では,正確な診断につながらず,実際の有症状率より低く検出されている可能性も考えられた.また,口頭で症状を訴えることが不可能なこれらの患者に対する現在の口腔顔面痛の診査,診断方法は,未だ不十分であることが明らかとなった.
    結論:未曾有の超高齢社会を迎えた現在,認知機能の低下した高齢者に対する適切な口腔顔面痛の診査,診断方法の確立は急務と考えられた.
  • 下坂 典立
    2021 年 13 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    星状神経節ブロックは,下位頸椎横突起前面に局所麻酔薬を注入することで,星状神経節や頸部交感神経幹を遮断するコンパートメントブロックである.頭頸部,顔面,上肢,上胸部にブロック効果があり同部位の痛みや末梢循環改善に有効とされる.医科のペインクリニックでは頻用されるブロックであり,頭頸部,顔面への効果から歯科においても施行が可能である.
    星状神経節ブロックの生理的変化として施行側の口腔粘膜血流量増加およびそれに伴う頬部表面温の上昇が認められた.非施行側においては口腔粘膜血流量に明らかな変化は認めなかったが,頬部表面温の上昇が認められた.
    星状神経節ブロックは下歯槽神経障害,舌神経障害に対して治療効果があり,これらの治療効果の判断には機械的触覚閾値の計測および知覚変容と痺れ感の聴取が有用であった.咀嚼筋痛障害,口腔内灼熱症候群,神経障害性疼痛に対しても疼痛コントロールに有効であった.
    治療効果の判断には10回程度の施行が必要であった.
  • 柴田 護
    2021 年 13 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    片頭痛は中等度〜重度の拍動性頭痛を主徴として,悪心,嘔吐,光過敏/音過敏を随伴する.未治療の場合は4〜72時間持続するため,患者に対する障害度は高い.さらに,若年者に好発するため,社会全体に与える経済的損失は非常に大きい.片頭痛の病態生理には不明な点が多いが,根本的な原因は神経機能異常にあると考えられる.予兆は視床下部の異常によって引き起こされ,前兆は大脳皮質での皮質拡延性抑制/脱分極が関与すると考えられている.しかし,頭痛発生時には三叉神経系の異常活性化が存在し,カルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP)が末梢性感作誘導に中心的な役割を果たしている.片頭痛急性期治療薬の主役は5-HT1B/1D/1F作動薬であるトリプタンである.その作用機序はCGRP放出抑制と考えられている.片頭痛予防薬としては,カルシウム拮抗薬,抗てんかん薬,三環系抗うつ薬が用いられているが,これらの薬剤は神経の異常興奮性を是正する作用がある.しかし,現在の片頭痛治療にはunmet medical needsが存在する.CGRPに対する分子標的治療が最近になって導入された.CGRP関連モノクローナル抗体と低分子CGRP受容体拮抗薬からなるが,特に前者は優れた片頭痛予防効果を発揮する.現在,片頭痛薬物治療は新しい時代に入りつつあると言ってよい.
原著論文
  • 野口 智康, 柏木 航介, 野口 美穂, 半沢 篤, 半田 俊之, 福田 謙一
    2021 年 13 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    目的:咀嚼筋痛は,多因子が関与して発症することから,病悩期間の個人差も大きい.そこで本研究は数ある原因因子の中からスクリーニングツールによって評価される心理社会的因子が,病悩期間に与える影響を調査することを目的とした.
    方法:咀嚼筋痛の診断を受け,同意を得たものの中から診断時の年齢,性別,心理社会的因子の質問票(うつ:Patient Health Questionnaire-9以下PHQ-9,身体化:Patient Health Questionnaire-15以下PHQ-15,不安:Generalized Anxiety Disorder-7以下GAD-7を使用)のスコア,筋痛のサブタイプ(局所性筋痛または筋膜痛),病悩期間(自覚症状出現から診断に至るまでの期間)を調査した.得られたデータから,病悩期間の中央値を算出した.そして,病悩期間(中央値未満と中央値以上の2値変数)を従属変数とし,年齢,性別,心理社会的因子の各スコアと咀嚼筋痛のサブタイプを独立変数としたロジスティック回帰分析を行い,病悩期間に関連する因子を特定した.
    結果:対象者は68名であった.PHQ-15に有意性を認めたが,その他の項目に有意性は認めなかった.PHQ-15のオッズ比は1.25(95% Cl:1.09-1.43,P=0.002)であった.
    結論:咀嚼筋患者の病悩期間に最も関連する因子は,PHQ-15(身体化)のスコアであった.
症例報告
  • 渡邉 広輔, 北原 功雄, 青野 楓, 松本 邦史, 今村 佳樹, 野間 昇
    2021 年 13 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は74歳女性.X−5年より両側上顎臼歯部の鈍痛と側頭部の頭痛を自覚し,近歯科医院を受診したが異常は認められないため経過観察となった.側頭部の頭痛,上顎左側臼歯部の痛みが徐々に悪化してきたため,X年3月に,原因不明の痛みのため本院ペインクリニック科を紹介来院した.初診1か月後より上顎左側臼歯部に発作痛が出現したことからMRI検査を施行した.頭部MRIでは左側後頭蓋窩領域に腫瘍性病変を認めたため,某脳神経外科を紹介された.同年5月全身麻酔下に後頭蓋窩腫瘍摘出術が施行された.同年8月,当科受診時には左側上顎臼歯部の疼痛および側頭部の頭痛は消失し経過観察となった.
    考察:本症例は,経過から後頭蓋窩の巨大な髄膜腫による二次性三叉神経痛を伴う慢性の口腔顔面痛・頭痛と診断した.5年前から初診1か月までの頭痛については,頭痛および発作痛が発見の契機になったこと,後頭蓋窩髄膜腫摘出後に頭痛が消失したことから「脳腫瘍による頭痛」と診断された.一方,初診1か月以降の上顎左側臼歯部痛みは「二次性三叉神経痛」と診断した.このように多様に臨床症状が変化したことから診断に苦慮した.
    結論:慢性頭痛または脳神経症状がみられる場合には,二次性頭痛または二次性三叉神経痛を引き起こす頭蓋内疾患を鑑別診断する必要があり,スクリーニングにはMRIが必須であると考えられた.
  • 井上 卓俊, 山本 徹
    2021 年 13 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:肝硬変を主死因とする81歳男性.星状神経節ブロック(SGB)施行の際,刺入部位の高さとなる第5―第6頸椎レベルでの,左総頸動脈の強い蛇行と随伴する迷走神経および交感神経幹の蛇行所見を有する献体を経験したため若干の知見とともに報告する.
    考察:本症例ではSGB施行の際,胸鎖乳突筋の触診による通常の位置での総頸動脈の拍動を確認するのは困難であり,血管内誤注入による局所麻酔薬中毒を招く可能性があると考えられた.また,交感神経幹の大きな蛇行から,第6頸椎の横突起付近に局所麻酔薬を注入させることは可能であるが,SGBが十分に奏功しない可能性も考えられた.本症例で疑われた頸動脈蛇行症は通常,解剖学的に右側が好発部位であるが,本症例では左側に認め,極めて稀な例であった.超音波ガイドにより総頸動脈などの解剖学的構造物を視覚的に捉えることが可能であるが,頸部解剖の知識は重要である.
    結論:本症例は解剖実習用遺体から,SGBの手技を困難にさせうる一例として左総頸動脈の蛇行症例を示した.SGBを行うにあたっては,常に潜在的解剖学的偏位・変形の可能性を考え,必要ならば超音波ガイドを用いるなどの慎重な姿勢が患者の安全につながる.
  • 水永 潤子, 野口 智康, 福田 謙一
    2021 年 13 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は59歳女性,上顎左側小臼歯部と左側三叉神経第Ⅱ枝領域の激痛と異常感覚を主訴に来院した.症状は3年前に左側上顎洞嚢胞摘出術を受けた直後より突如発症し,さまざまな医療機関を受診するも全く改善しなかった.痛みの性状は左側三叉神経第Ⅱ枝領域に刺されるような電撃痛が出現するのに加え,1日中継続する持続性疼痛がみられた.初診時には典型的ではないものの三叉神経痛を疑い,カルバマゼピン100mg/dayを処方したところ,電撃痛は減弱したが持続痛は残存した.MRI撮影を行ったところ,三叉神経の神経血管圧迫を認めた.また左側の側頭筋に左側小臼歯部へ関連痛を伴うトリガーポイントを認めたため,マッサージ指導を行い,さらに痛みは減弱したが,アロディニアを伴う違和感と疼痛が残存したため左側星状神経節ブロック(SGB)と,硫酸マグネシウムとリドカイン塩酸塩の点滴静脈注射を施行したところ,痛みは自制の範囲内に治まった.現在はSGBと点滴を併用することで痛みはコントロールされている.
    考察:患者の痛みは左側三叉神経第Ⅱ枝領域の複合性局所疼痛症候群(CRPS)様の神経障害性疼痛と三叉神経痛様症状の併発を主症状とし,さらに筋筋膜痛による歯痛の併存が考えられた複雑な病態であった.
    結論:口腔顔面痛の臨床において,疼痛を惹起する原因は多岐にわたる.慎重な診断と様々なアプローチを行うことが患者のペインコントロールに重要であると考えられた.
  • 岡安 一郎, 和気 裕之, 達 聖月, 鮎瀬 卓郎
    2021 年 13 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例1;20代女性.症例2;50代女性.いずれも顎の痛みを主訴とし,近医歯科からの紹介で「長崎大学病院オーラルペイン・リエゾン外来」を受診した.患者は,Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders (DC/TMD)に準じて評価を行い,症例1は顎関節症(顎関節痛障害),症例2は顎関節症(咀嚼筋痛障害)と診断した.医療面接から,2症例とも,学校や家庭生活におけるストレスが契機となって発症したと考えられたため,MW分類(心身医学・精神医学的な対応を要する患者の分類)Type D(狭義の歯科心身症に該当するケース)の顎関節症中核群に該当すると判定し,心身医学的対応を中心とした管理を行った.
    考察:心理社会的ストレスとともに,歯ぎしり,くいしばりといったパラファンクションがみられることも2症例の共通点であり,症例1は顎関節が,症例2は咀嚼筋がTarget organとなり,顎関節症が発症したと考えられる.症例2は,痛みだけでなく,肩凝り,動悸,目眩等,痛み以外の種々の症状がみられる点で症例1とは異なり,より難症例の顎関節症中核群であるといえる.
    結論:顎関節症の病態は生物心理社会的モデルに該当し,2軸で診断を行うことが推奨される.狭義の歯科心身症に該当する顎関節症中核群に対し,心身医学的治療を基本とし,個々の症状に合わせて対応を行った2症例を報告した.
  • 河端 和音, 左合 徹平, 椎葉 俊司
    2021 年 13 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は31歳女性.2か月前より左側下唇とオトガイ部の灼熱痛と痺れを自覚し,耳鼻咽喉科,脳血管内科および口腔外科を受診したが原疾患の特定はされず,症状の改善を認めないため,当科を紹介受診した.初診時,左側三叉神経第3枝領域に疼痛と著明な知覚低下を認めたため,メコバラミン,ATP腸溶錠,ミロガバリンの内服および星状神経節ブロック治療を開始した.治療開始1か月後,症状は改善傾向にあったが,治療開始4か月後に疼痛と知覚低下が増悪し,知覚低下の両側三叉神経全枝への波及を認めた.また,患者から手指のこわばりや寒冷環境下における手指蒼白などRaynaud現象と思われる訴えがあったため,膠原病リウマチ科へ紹介したところ,混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)と診断され,治療が開始された.現在はRaynaud現象や関節痛および三叉神経領域の疼痛は症状改善を認めているが,知覚低下は残存している.
    考察:MCTDの症状に三叉神経障害や三叉神経痛が存在するが,Raynaud現象など頻発症状に先行し,初期症状として単独で出現した症例は少ないため,原疾患の診断に苦慮した.MCTDには致死的な随伴症状も含まれるため,早期の診断および専門科での加療が重要である.
    結論:三叉神経領域の疼痛および知覚低下に対し,鑑別診断としてMCTDを考慮することが必要である.
  • 浅野 崇浩, 矢島 祥助, 安井 真梨子, 落合 駿介, 遠藤 友樹, 吉川 桃子, 西須 大徳, 佐藤 仁, 黄地 健仁, 莇生田 整治, ...
    2021 年 13 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:今回われわれは,関節リウマチ(RA)およびシェーグレン症候群(SjS)で当院通院中に,左顔面痛を主訴に当科を受診し,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)と診断された症例を経験したので報告する.患者は69歳女性で,既往歴として17年前よりRAと診断され,長期にメトトレキサート(MTX)とプレドニゾロンを使用していた.また,SjSにより,たびたび耳下腺の腫脹を認めていた.受診時,左鼻翼下の水疱と耳下腺部軽度腫脹を認め,左三叉神経第2枝帯状疱疹およびSjSによる左耳下腺炎として初期加療を開始したが,耳下腺部の腫瘍性病変が疑われ,生検の結果,MTX-LPDと確定診断された.
    考察:RAやその治療に対するMTX投与は,口内炎や帯状疱疹発症の危険因子となることはよく知られている.今回,SjSにて耳下腺の腫脹を繰り返していた通院患者が左顔面痛にて来院したが,急性症状としての帯状疱疹のみならず耳下腺部にMTX-LPDを生じたことは,鑑別診断に苦慮した一因になったと考えられた.
    結論:RAやSjSといった自己免疫疾患患者は,歯科・口腔外科に日常的に通院しており,MTX等の免疫抑制薬を使用していることも多い.口腔顔面領域に痛みを生じた際には,病態が複雑化していることを考慮し,帯状疱疹や悪性リンパ腫などさまざまな鑑別疾患を踏まえ,関連他科と連携し慎重に対応することが重要である.
  • 池田 真理子, 野間 昇, 小笹 佳奈, 田中 玲那, 田所 壯一朗, 髙根沢 大樹, 今村 佳樹
    2021 年 13 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は76歳の女性.当科初診2週間前に右側上眼瞼に電撃様疼痛を自覚した.眼科を受診したが異常はないと診断された.2日後に右側側頭部および顔面の疼痛を自覚し当科を受診した.当科初診時,右側前額部,右側側頭部,後頭部に電撃様の疼痛があり,頭部アロディニアを認めた.また,右側結膜充血,右側の流涙,前額部と鼻尖端部に膿疱様の発赤を認めた.MRI水平断で右側root entry zoneにおける脳動脈による三叉神経根の圧迫はみられなかった.血液検査でウイルス抗体価:CF(水痘・帯状疱疹)32と高値を認めたため,右側三叉神経第1枝の急性帯状疱疹と診断した.疼痛管理としてプレガバリンを25mg/日から開始し50mg/日まで増量した.プレガバリン投与開始から3か月で頭部および顔面の疼痛は消失したためプレガバリンは休薬した.
    考察:三叉神経第1枝の急性帯状疱疹は非定型顔面痛,自律神経様症状が出現することがある.三叉神経痛第1枝,結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)と臨床症状が類似するため鑑別が困難である.
    結論:自験例は多様な臨床症状を呈し診断に苦慮した.歯科医師は一次性頭痛,有痛性脳神経ニューロパチーとの鑑別に必要な臨床症状を理解し,有効な診察,検査を行う必要がある.
  • 髙橋 香央里, 笠原 諭, 福田 謙一, 一戸 達也
    2021 年 13 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:40歳,女性.左側下顎第一小臼歯部に相当する舌側縁のピリピリ感に対して,薬物療法について説明したところ,過去の経験から薬物療法の実施に理解が得られなかった.そこで,舌側縁が歯に触れてしまうという訴えに対し,ソフトタイプのオーラルアプライアンスを作製したが,効果は装着時のみであった.
    症状が長期に渡っていたことや,診察中に注意欠如多動性障害(ADHD)の行動所見を認めたためADHD尺度によるスクリーニング検査を行ったところADHDの可能性が示された.患者の希望もあり精神科医へ加療を依頼したところ,身体症状症と混合型ADHDの診断がなされた.診断により,日常生活で自覚している自責感が減り薬物療法を受け入れることが可能となり抗うつ薬の内服により疼痛軽減の効果が得られて経過良好である.
    考察:舌痛症患者の中には難治性を呈することもあり歯科領域を超えた加療も必要となることがある.本症例ではADHDスクリーニングを行い,医科への紹介となった.今回の結果から今後も難治性を呈する舌痛症患者の評価の一つとして検討していく必要性が考えられた.
    結論:舌痛症の診断をしていくうえでADHDスクリーニングを今後検討していく必要性及び精神科医との連携が重要であると思われた.
  • 椎葉 俊司, 河端 和音, 左合 徹平, 布巻 昌仁, 坂本 和美
    2021 年 13 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    ケタミンは歴史のある全身麻酔薬である.ペインクリニックではCRPS,帯状疱疹後神経痛,幻肢痛などの慢性神経障害性疼痛および,その他の慢性疼痛の治療薬として使用されてきた.ケタミンの静脈内投与が有効であった口腔顔面領域の慢性疼痛の3症例を報告する.
    症例の概要:対象は病悩期間が長く,心理社会的ストレスを持つ特発性歯・口腔痛,口腔灼熱症,筋・筋膜性疼痛の3症例である.薬物療法,神経ブロック療法,理学療法などの治療に抵抗性を示したため,ケタミンの静脈内投与(0.5mg/kg/40min)を行ったところ,良好な痛みの軽減を得た.
    考察:ケタミンは3症例の異なった慢性疼痛疾患の痛みを軽減した.痛みには不快な主体的な体験である.痛みには感覚性と情動性の面がある.慢性疼痛は前帯状回,島皮質,視床,前頭前野などの高次脳が関与する情動性の痛みの占める部分が多い.ケタミンの静脈投与が高次脳に作用することで痛みの軽減が得られた可能性がある.
    結論:ケタミンには様々な副作用があることより,静脈内投与には細心の注意を払う必要がある.また,非がん性の慢性疼痛への効果や有害事象に関するエビデンスは非常に少ない.適切なプロトコールに基づいた臨床研究によるエビデンスの確立が必要であるが,ケタミン静脈内投与は,あらゆる治療に抵抗性を示す口腔顔面痛の治療法の一つとなる可能性がある.
  • 佐藤 仁, 村岡 渡, 中山 詩織, 莇生田 整治, 嶋根 俊和, 中川 種昭
    2021 年 13 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は60代の女性で,右側上顎歯肉の疼痛を主訴として来院した.右側上顎歯肉や口蓋粘膜に発赤や腫脹はなく,アロディニアが認められた.CTでは右側上顎骨が粗造となっているものの,骨吸収像や腐骨形成は認められなかった.患者は10年前に右側鼻副鼻腔悪性黒色腫(T3N0M0)に対して重粒子線治療を施行していた.腫瘍の局所再発や遠隔転移,放射線性骨髄炎を示す所見はなく,重粒子線治療の晩期有害事象として生じた神経障害性疼痛と診断した.プレガバリンの投与により右側上顎歯肉や口蓋粘膜の疼痛は軽減した.
    考察:頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療の晩期有害事象に関する詳細な検討はほとんどない.重粒子線治療による頭頸部がんサバイバーでは晩期有害事象として神経障害性疼痛が生じる可能性があり,適切な診断や治療,ケアが重要である.
    結論:頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療では晩期有害事象として末梢神経障害が生じることがあり,本症例では遷延化した神経障害性疼痛に対して,プレガバリンの服用が有効であった.
  • 田中 玲那, 野間 昇, 小笹 佳奈, 岡田 明子, 田所 壯一朗, 羽鳥 啓介, 今村 佳樹
    2021 年 13 巻 1 号 p. 105-109
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    概要:ミロガバリンベシル酸塩(タリージェ;以下ミロガバリン)は末梢性神経障害性疼痛を効能・効果として承認されたが,口腔顔面痛に対するミロガバリンの臨床経験は少ない.口腔顔面領域における外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーに対して処方したミロガバリンの治療効果と副作用を臨床的に検討した.
    方法:日本大学歯学部付属歯科病院ペインクリニック科を受診した外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー患者9人を対象にミロガバリンを処方した.対象患者の男女比,年齢分布,病悩期間,国際頭痛分類第3版に基づいて診断,治療効果,副作用について調査を行った.治療効果については,ミロガバリン投与3か月後に疼痛の改善の有無を判定した.疼痛の程度は数値評価スケール(NRS)を用いて投与前後を評価した.
    結果:ミロガバリン処方前後でNRS改善率は40.6±29.0%であった.9例中4例に副作用として傾眠3例,体重増加+浮動性めまい1例が認められた.
    結論:ミロガバリンは外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーの疼痛改善に有効であったが,副作用もあることから口腔顔面領域における末梢性神経障害性疼痛に対しては,低用量から始めるなどの用量調節をする注意が必要であると考えられた.
  • 野口 美穂, 野口 智康, 福田 謙一
    2021 年 13 巻 1 号 p. 111-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    症例の概要:50歳,男性.10年前から顎が痛むことを主訴に来院した.5年間大学病院で治療を受けるも,改善,悪化を繰り返していた.症状は次第に悪化し,食事が困難な状態であったため当科に転科となった.無痛開口量は25mm,強制開口量は37mmであった.咬筋に開閉口時痛と自発痛を認めた.筋触診では両側側頭筋,両側咬筋に圧痛を認め,両側咬筋に放散痛,右咬筋に激痛を認めた.心理社会的評価は高い不安状態であった.両側咬筋,右側側頭筋の筋膜痛と診断し治療を開始したが一般的な顎関節症の初期治療(セルフマッサージ,マイオモニター,レーザー療法,アプライアンス療法,トリガーポイント注射など)では良好な治療結果が得られなかった.そこで星状神経節ブロックを施行したところ良好な疼痛コントロールが可能となった.
    考察:本症例は長期間痛みのコントロールが困難な難治性顎関節症(筋膜痛)であった.星状神経節ブロックで鎮痛効果が得られたことから,本症例の病態は,筋肉の末梢循環障害や交感神経依存性疼痛の可能性が考えられ,一般的な顎関節症の初期治療が奏効しにくい状態であったと思われた.
    結論:本症例のように一般的な顎関節症の初期治療では良好な結果が得られない難治性の筋膜痛に対して星状神経節ブロックは価値のある治療法であった.
技術紹介
  • 大野 由夏, 河野 亮子, 安藤 槙之介, 高木 沙央理, 小長谷 光
    2021 年 13 巻 1 号 p. 117-127
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/28
    ジャーナル フリー
    目的:内因性疼痛調節機構を反映し術後痛発症予測因子の可能性があるconditioned pain modulation (CPM),temporal summation of pain (TSP),offset analgesia (OA) の測定法は様々である.そこで一つのシステムでこれらの測定を可能とする冷温刺激および圧刺激をもちいた内因性疼痛調節機構測定装置の開発を目指した.
    材料と方法:ペルチェ素子を応用した冷温刺激装置をもちいてPCによる制御を行った.開発環境はMicrosoft Visual Studio 2017,開発言語はC#とした.CPM,TSP,OA測定のための設定温度,実測温度等の表示は別ウィンドウで行えるようにした.設定温度等可変できるプログラムを作成し,本プログラムにより−10〜50℃の温度制御が可能であった.健康成人を対象にCPM効果,TSP ratio,OA scoreを評価した結果,それぞれ19.4 (31.8)%,1.1 (1.1),25.5 (40.5) であった (中央値 (四分位範囲)).
    考察:本開発装置により,被験者に負担なく短時間で安全に内因性疼痛調節機構を反映するCPM,TSP,OAの測定が可能であった.
    結論:冷温刺激および圧刺激をもちいた内因性疼痛調節機構測定装置を開発した.
国際口腔顔面痛分類(ICOP) 第1版
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