目的:高齢者人口の増加に伴う認知症の有病率上昇は,介護,医療の負担を増大させる深刻な社会問題となっている.本疾患による自立低下は,口腔内のセルフケア能力の低下などを介して健全な口腔,咀嚼機能の維持を困難とし,口腔顔面痛疾患罹患のリスクを高めることが予測される.しかしながら両者の関係については不明な点が多い.本総説の目的は,現時点での認知機能低下,認知症と口腔顔面痛の関係に関する知見をまとめ,今後の問題点と展望を考えることである.
研究の選択:認知機能低下,認知症と口腔顔面痛をキーワードに,PubMedと医中誌から文献検索を行った.定めた検索式で抽出した原著論文の文献数は少なく,検索から採用した文献の引用文献と,ハンドサーチで得られた文献をもとに文献レビューを行った.
結果:認知機能低下,認知症高齢者においては口腔顔面痛の有症状率が高いという報告と,低いことを示す結果を得た報告が存在した.口頭で痛みを訴えることができない状態では,正確な診断につながらず,実際の有症状率より低く検出されている可能性も考えられた.また,口頭で症状を訴えることが不可能なこれらの患者に対する現在の口腔顔面痛の診査,診断方法は,未だ不十分であることが明らかとなった.
結論:未曾有の超高齢社会を迎えた現在,認知機能の低下した高齢者に対する適切な口腔顔面痛の診査,診断方法の確立は急務と考えられた.
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