日本口腔顔面痛学会雑誌
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症例報告
診断が困難であった巨細胞性動脈炎の1例
池田 浩子井川 雅子高森 康次矢郷 香内田 育宏
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2023 年 15 巻 1 号 p. 19-26

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抄録

症例の概要:76歳,男性.両側側頭部の頭痛および両側咬筋部痛を主訴に来院した.一過性の嚥下困難感および視力低下・複視も自覚していた.開口障害はなかったが,両側側頭筋・咬筋の肥大および圧痛を認め顎関節症と診断し開口ストレッチ,歯の接触癖是正を指導した.2週間後両側側頭部の頭痛および両側咬筋部痛の急激な悪化のため受診した.視診にて両側浅側頭動脈の腫脹および右側浅側頭動脈の拍動低下を認めた.両側咬筋部痛については咀嚼開始後に悪化し,その後休むと症状が改善することより顎跛行と考えられた.巨細胞性動脈炎を疑い血液検査を行ったところ,赤血球沈降速度の上昇を認めたため,内科に精査を依頼した結果,翌日入院となりステロイドパルス療法が開始された.動脈生検の結果,巨細胞性動脈炎と確定診断された.ステロイドパルス療法開始後,両側側頭部の頭痛・顎跛行は速やかに改善し,入院後10日で退院となった.以後外来通院でステロイド内服は低用量で継続されているが,症状の再燃は認められない.
考察:巨細胞性動脈炎の病初期には,顎関節症のような臨床症状を呈することがある.経過中に痛みの急激な悪化,浅側頭動脈の腫脹や顎跛行などの特徴が診られた場合は,巨細胞性動脈炎を疑い精査を行う必要があると考えた.
結論:巨細胞性動脈炎は顎関節症と誤認する可能性がある.顎関節症の鑑別疾患として歯科医師も本疾患の病態を理解しておく必要があると考えられた.

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