抄録
症例の概要:38歳女性.下顎管に近接している38抜歯後に左側オトガイ部の知覚異常を認めた.ビタミンB12製剤内服で経過観察されていたが,内服開始後1か月経過しても症状に変化がなく,ペインクリニックでの加療を希望されたため,当院へ紹介となった.左側第3枝三叉神経ニューロパチーの診断のもと,星状神経節ブロックと鍼治療を行なった.星状神経節ブロックによる治療が20回終了したところで症状はDysesthesiaからParesthesiaへ変化していたが,著明な改善が認められないため,患者は治療継続を迷っていた.精密触覚機能検査,電流知覚閾値検査を行ったところ数値上改善を認め,その結果をフィードバックしたところ患者は治療継続を希望した.10回の鍼治療終了後,再度検査を行い,精密触覚機能検査,電流知覚閾値検査においてさらに改善を認め,その結果を患者にフィードバックしたところ,これまでの治療内容と現在の症状に納得し,治療終了を希望したため,終診となった.
考察:本症例のように患者の訴えに著明な改善が認められなくても,検査値が改善しているケースがある.検査結果に基づいた適切な病態説明は,患者の治療継続と良好な経過へつながる可能性があると考えられた.
結論:自覚症状の著明な改善が認められず,治療継続を迷っている口腔顔面痛患者において,定量的な検査と改善した検査結果のフィードバックは,患者の治療に対するモチベーションを維持し,その意思決定に有用である.