2011 年 4 巻 1 号 p. 1_35-45
三叉神経系における神経損傷/炎症動物モデルを用いた,これまでの多くの研究において,一次感覚ニューロンの興奮異常が引き金となり二次ニューロン以降の疼痛伝達路に影響を及ぼすことが知られている.これらの変化が病的疼痛の一つであるアロディニアの原因となることが示唆されている.一次感覚ニューロンの過興奮に複数のタイプの電位依存性イオンチャネルが関わることが知られているが,中でも,電位依存性K+チャネルは,侵害受容ニューロンを含む興奮性細胞の静止膜電位調節の重要な生理的因子として知られている.電位依存性K+チャネルの開口は膜電位を過分極側へシフトさせ,結果としてニューロンの興奮性を低下させるため,いくつかのタイプの電位依存性K+チャネルは疼痛治療における分子標的の候補として期待されている.本総説では,三叉神経領域における神経因性/炎症性動物モデルにおいて共通の変化として見出された電位依存性K+チャネルの変調について,特に三叉神経節ニューロンの興奮性と電位依存性のK+チャネルの変調との関連について焦点をあてて解説する.また電位依存性K+チャネルがアロディニア発現を防ぐ治療の分子標的になり,K+チャネル開口薬が治療薬として奏功する可能性についても議論する.